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太陽電池    2014(#14)


"三菱重工長崎造船所" より続く

太陽電池の世界生産量(額)は、モジュールで40GW(4兆円=kWあたり10万円)。生産高でリチウムイオン電池の2-3倍である。太陽電池モジュールは、リチウムイオン電池と違って部品としてではなく、同程度の付帯設備を必ず伴った10兆円規模の太陽電池産業そのものとしてとらえることができる。ほとんどが中国に籍を置くメーカーの多結晶/単結晶シリコンモジュールであり、10位以内に入る日本の2社、シャープと京セラも多くは中国籍メーカーよりOEM供給を受けたものである。その種類は、多結晶Si/結晶Si*1)/薄膜*2)の割合が、おおよそ60%/30%/10%。






*1)
結晶では、モジュールのトップメーカーとしては名前が出てこないが、"SEMI発表"  のとおり、パナソニックとSunpowerが単結晶Siの光電変換効率を争っている。

*2)
薄膜の内訳は、CIGS/a-Si/CdTe がおおよそ 3ポイント/3ポイント/4ポイント程度とみられている。

・このうちアモルファスシリコンはこの数年間で次々とレスピレータを外されたかたちとなり、30年の長い植物状態からやっと眠りにつくことを許された。
@ 富士電機は、アモルファスシリコン太陽電池セル事業をニュージーランドZinniaTek社に譲渡することを発表した。熊本工場と千葉工場の土地・建物・生産設備、研究開発設備や棚卸資産、太陽電池関連の商標権と知的財産権を含む。
@ アモルファスシリコン太陽電池メーカーである三洋ENEOSソーラー(JX日鉱日石エネルギー、三洋電機(パナソニック)合弁)は2012年に清算された。
@ 三菱重工業はアモルファスシリコン太陽電池の生産設備を大幅に削減している。

・薄膜の中では現在CdTeが一歩リードしている。CdTe自体は古くから検討されながらしばらく水面下に潜ってしまっていた材料だが、米FirstSolar社が、「その危険なカドミウム、私が管理しましょう。」というクールなモデルを展開し一躍トップに踊り出た。変換効率はモジュールで17.0%(米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)測定)を達成している。

・CIGSはソーラーフロンティアが孤軍奮闘。
@ ホンダは、太陽電池システムを生産するホンダソルテック(熊本)の事業を終了し、太陽電池の製造・販売から撤退することを発表した。変換効率が伸びず、工場の規模も30MW(70億円投資)にとどまっていた。
@ ソーラーフロンティア(宮崎)は、2007年に第1工場、2009年に第2工場、2011年に当時世界最大の国富工場、と、その規模は1000MW(1000億円投資)に達した。東北には150MWの新工場。モジュール変換効率15%で量産。メガソーラーで順調に採用実績を重ねている。この分野で世界トップを走っていた前掲米FirstSolar社に製品の競争力では追いついた。


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SEMI発表    2014(#10)


SEMI(米、サンノゼ)は、2013年Q4の太陽光発電関連装置のBB(book-to-bill)レシオが0.61であることを発表した。このBBレシオは2011年Q2を境に11期連続で1を割っており、当期も、12年後半から13年にかけての一時的な回復(0.8)にさえ届く勢いは無い。

産総研と久留米工業高専は、CIGS太陽電池モジュールにおいて、加速劣化試験(-1000V,85℃,15日間)後の出力が、封止材がEVAである場合には初期の30%まで落ちるのに対し、封止材をアイオノマーとした場合にはほぼ100%を保っていることを報告した。現在メガソーラー発電所においてみられる、PIDと呼ばれる劣化現象の抑制につながる結果とみている。産総研は昨年、こちらは結晶シリコンのセルであるが、EVAで封止した場合でも、表面ガラス基板との間に酸化チタン系の複合金属化合物薄膜をコーティングすれば、加速劣化試験(-1000V,85℃,2時間)後の出力が低下しないことを報告していた(コーティングの無い場合はほぼ短絡)。このときの原因は表面ガラス基板からのナトリウムイオンと推定している。

パナソニックは、シリコン系太陽電池セルでの世界最高レベルである変換効率25.6%をセル面積143.7cm2で達成したことを発表した。電極はバックコンタクトで、n-cSi/i-aSi/pまたはn-aSiの積層。バックコンタクトを採用した太陽電池は、2012年にSunpower社がセルで約24%(モジュールで約20%)の製品の供給を開始している(日本では東芝、シャープ向け)。



以上、粛々と進んでいるのか停滞しているのか、やる気があるのか手仕舞いしようとしているのか、なんとなくぼんやりとただ平和な気分で眺めてしまうニュース三題なのである。


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東京エレクトロン太陽光パネル製造装置    2014(#06)


東京エレクトロンが、太陽光パネル製造装置事業から撤退することを発表した。また、本件による固定資産の減損損失などで326億円を計上し、26年3月期の純利益が△220億円となる見込みを公表した。

以下、
東京エレクトロン>ホーム>ニュース>2014年>太陽光パネル製造装置事業からの撤退に関するお知らせ
より引用。

1. 事業撤退の背景・理由
当社は、平成21年よりOerlikon Solar社のアジア・オセアニア地域の販売代理店となり、薄膜シリコン太陽光パネル用一貫製造ラインの販売・マーケティングを開始いたしました。平成 24年には同社を買収し、薄膜シリコン太陽光パネル市場に本格参入いたしましたが、生産設備の供給過剰状態から事業環境の厳しい状況が続いておりました。 当社ではこれまで、変換効率向上に向けた開発強化およびコストダウンに最大限取り組んでまいりましたが、市場環境の回復が不透明ななか収益状況は依然とし て厳しく、今後の事業環境下においても投資回収が見込めないことから、太陽光パネル製造装置の製造開発、販売活動を停止し、納入済み装置に対するサポート 継続のみを行う体制に縮小することを決定いたしました。


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n-CGS    2014(#05)


産総研と太陽光発電工学研究センターは、CdSとの積層によるCuGaSe2太陽電池では、CdSでなく、界面で銅(Cu)の欠乏したCuGaSe2「異相層」がn型層として働いていると、その実験結果を示した。

CIGSは、InとGaの組成比によって禁制帯幅をコントロールすることができる。
CuInSe2(1.0 eV)−−− CuGaSe2(1.7 eV)
いずれもこれだけではp型半導体であり、組成左端のCuInSe2は比較的容易にn型化することができるのに対し、右側、すなわちGaの比率が多くなるにしたがってn型化ができなくなる。このことは、Gaの比率を上げて広禁制帯幅を得ることによって光電変換効率を上げようという、最も基本的かつ重要なアプローチを害する要因である。

発表は、CuGaSe2をp型活性層、CdSをn型バッファ層とした太陽電池で、SIMSによる組成分析とEBICによる高電界域の観察を行った結果である。
SIMSではCuだけでなくNaやKといったアルカリ金属にも注目しており、銅の欠乏と合わせ、理想的な接合(ホモであるかヘテロであるかはこの際問題ではない)を実現するn型半導体を形成するキーファクターと見ている。

ただ、実験段階の太陽電池は、生産性や信頼性を除けば非常に早く結果(試作と光電変換効率)の出るデバイスだ。今回の考察に何の数値も出てこなかったいという事実にも、多くの納税者はちゃんと気づいているのである。


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CIGS    2008(#7)


CIGS太陽電池の量産(08年20MW/09年60MW)を予定している昭和シェルが、アルバックと製造装置の共同開発を開始する。年1GWのプラントを11年に稼動することが目標。

CIGSは「黄銅鉱と似た結晶構造の」とも表現されるⅠ-Ⅲ-Ⅵ族化合物だが、その名のイメージとは違って柔軟な組成を可能とする固溶体を構成し、禁制帯幅を制御することができ、高い吸収係数を持つことや色々な方法で薄膜としての形成が可能であることなどから、欧米を中心に80年代から太陽電池に向けての研究がなされてきた。エピタキシなどによってGaAlAsやGaNのようにデリケートな扱いを受ける事も、逆に蒸着セレン化法や粒子印刷法というダイナミックな作製方法もいずれも受け入れるという二面性は、お互いに助け合って順調にその総合力(変換効率/製造技術)を向上させた。21世紀に入って、CIGSは原材料Siの不足と原油の高騰に後押しされながら多結晶Siと同じ(または薄膜Siに替わって)この事業の表舞台に立とうとしている。

昔、日本の薄膜(アモルファス)Si太陽電池は、90年の日本経済と石油開発の両バブルにその芽を摘み取られたと評された。しかし実は当時から、民生用太陽電池産業が立ち上がってもそのプロフィットゾーンが製造分野に巡ってこない可能性は指摘されており、電機メーカは人材と金を投下せず、したがって技術の向上や特にコスト削減があるレベルから全く進まなくなったことにその本当の原因はある。

標記ニュースよりも先に、欧米のベンチャー20社程度(日本ではまだホンダと昭和シェルの2社)が、今年から来年にかけ数十~数百MW規模でCIGS太陽電池の製造を計画している。業種、沿革、ニュースリリ−スからは、ローンを含めた金融、運用(プラント)、材料調達、メンテナンス、このあたりのゾーンを無視して成立する事業ではないということが今度はハッキリと浮かび上がってくる。CIGSはこのことを太陽光の下に引っ張り出した。


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塗布膜で最大1.1cm2/Vs    2007(#12)


旭化成と光産業技術振興協会が応用物理学関係連合講演会で発表。
・平均移動度: 0.62cm2/Vs、最大1.1 cm2/Vs、最小0.2 cm2/Vs
・しきい電圧: 平均−1.82V。溶液からの結晶・析出温度: 150~200℃
99年にベル研が発表したペンタセンFET(0.1~1cm2/Vs)は昇華蒸着による形成であったが、発表の移動度はこれに匹敵する。塗布によるペンタセンは印刷プロセスなどへの適用に向け検討されていたが、他の高分子膜と同様、これまで昇華蒸着によるペンタセン膜に特性は及ばなかった。

有機半導体として現在活発に研究が行われているペンタセンは、ベンゼン環が5つ直線的に並んだだけの構造をもち、その特徴は結晶構造が2次元に整列した層状構造を示すことである。ペンタセンは通常絶縁体だが、ヨウ素(アクセプタ)やアルカリ金属(ドナー)を添加することによって電気伝導度は増大、半導体的もしくは導体的な性質を見せるようになる。特にヨウ素をドーピングした場合、その電気伝導度は純粋なペンタセンに比べて10桁以上高くなる。

有機(低/高)分子であっても半導性を示すためには、やはり低エネルギーでキャリアを生成することと大きな移動度を持つ事が重要である。一般的には、π電子系を持つもの、共役系が発達しているもの、分子間相互作用の大きなものがこれらを満足する可能性の高い材料と言われている。ペンタセン以外にも多くの有機(低/高)分子がこれまでに取り上げられできた。また、例えばπ電子共役系が互いに向き合うように配向した液晶(ディスコチック/カラミティック液晶)において、0.1cm2/Vs程度の移動度も報告されている。

標記発表は、電気泳動型ディスプレイや液晶ディスプレイへの展開を期待させる。塗布による素子の配置形成、低温プロセス、ロール形成、これらが大型直視型ディスプレイの目指すべき姿とされているのは、それが「機能の分離」という自然な行き先きだからだ。電機メーカが半導体プロセスを拡大コピーしたあの現代の恐竜のような現代のLCD工場、関わった多くの技術者はその膨大な消費に、得体のしれない化物に対する恐れあるいは違和感のようなものを肌で感じているのである。


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セル変換効率11~13%の薄膜太陽電池を07年より量産    2006(#22)


非晶質Siを2層と微結晶Siで構成。窓側に広バンドギャップの材料を、反対側には狭バンドギャップで拡散長の大きな材料を順に用いることにより、波長毎に励起ロスの無い光電変換を行うという構造である。非晶質Siは、同じⅣ族のGeやCなどの添加によってバンドギャップを制御できるが、「結晶ではないのに半導体である」というマクロな状態を保ちつつこれをコントロールすることは非常に難しい。欠陥をゆらぎとして受け入れ、逆にそのもたらす性能(広バンドギャップ、直接遷移、形状設計など)を扱うというところに、半導体レーザやLEDに使うⅢ−Ⅴ族化合物半導体との根本的な相違がある。ちなみにLCD用のアモルファスSiとはほとんど別物で、言語さえ違う。

現在、非晶質Siは、単結晶Siはもとより多結晶Siに比べても、はるかに小さなエネルギーでその原料(ガス)を得ることができる。EPT(Energy Pay back Time)(*1)や環境保全の観点で他の材料を凌ぐということは、実質的な量産のないまま30年にわたって見捨てられなかった理由のひとつである。
一方多結晶Si太陽電池には、半導体用結晶Siの母材が多く原料として流用されている。これは現在太陽電池専用プラントを建設するだけの需要が表面に出てきていないからである。しかし、珪砂(SiO2)から還元工程だけで太陽電池グレードの多結晶Siを製造するなど、専用プラントの効率と規模によってはEPTも非晶質Siにそれほど劣らず、変換効率を考えると多結晶Siこそ今の最適な選択と見る向きもある。

石油の埋蔵量が残り25年と言われた1980年頃から、太陽電池はその開発に大きな期待が寄せられ、変換効率にも注目が集まった。当時、基準となる測定方法や用語の定義すら定まらないまま、多くのデータが熱と混乱の中で提示され、信じられないことだが国内有名企業による「捏造」もあった。
その後比較的短い間でこのブームが去ってしまったのは、情報の操作と独占が産油国や米国にとって難しくなったことや、油田開発技術の進歩はもちろん、90年バブルに向け新しい投資の対象が次々に登場したことも大きな原因だ。財閥や鉄鋼はDRAM、電機はPCとLCD、化学はそれらの原料と新素材に、われさきにと資本を振り向けたものである。
いま、家庭向け太陽電池システムは、おおよそは正当な評価を受けていると言えるだろう。設置費用の目安は4kWクラスで400万円。そして効率よく稼動すれば年間5000kWh=10万円程度の発電量が見込まれる。一方、耐久部材や現実的な設置保証期間からは、10年が家庭向けに許される償却年数と考えられている。「設置費用は想定の4倍」というのが現在の評価である。しかしこれに対して、電気料金が2倍に上がれば増産で費用が半減その結果10年、という安直なストーリーにも、実際それほどの違和感は無い。






*1)
セル単体のEPTは、非晶質Siが数ヶ月、多結晶Siが3~4年と言われている。システムとしては、これに周辺装置部材の1年程度(4kWの場合)が加算される。


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