Back List


はし書き


『電磁波にかかわる現象はマクスウエルの方程式によって説明できる』

「式によって説明できる」などというインチキな表現を、俺は一切信用しない。それによって何かを理解できたことなど今までに一度もないからだ。「説明できる」ならそこで説明しろよ、って話である。さらに彼らによれば、「磁場とは相互作用を」とか、「ローレンツ短縮で」とか、「反作用を電荷から」とかだそうだ。いよいよ怪しい。

ならば、と俺は教科書をひっぱり出した。そして電場とか磁場とか知ったような気になってみれば、アンペールの閉磁路法則(ほう)、とか、ファラデーの電磁誘導の法則(ほう)、とかが並んでいるページをつらつら眺め(ほう)、電場と磁場はx方向に進む波になるはずだ、なんてことをまたもやフクロウのように信じ込まされてしまうのだ(なんだかんだ言いながら結局ダマされるタイプです)。ただし、気持ちが晴れることは決してない。それはどこかの(おそらくいくつもの)理解が決定的に不足しているからだ。その教科書の中では自分にとって意味の定まった言葉の数がまったく足りないのである。

一方、ただバンバン撃ちまくることによって局面を乗り切るしか生きる術のない新米二等兵にとってみれば、それがどんな弾であるかなどはどうだっていい。ふと浮かんでしまった疑問のために敵の面前で引き金を引くのをためらったりしていては、命がいくつあっても足りないのである。例えばFEMやFDTDなど電磁界解析はマクスウエルの方程式をソルバとしてよく期待どおりの絵を出力し、どこに持っていっても必ず威力を発揮する重要な武器だ。効果が保証されているならためらわずに使うことだ。ただ、そうではあっても、そのとき(または生き残ったあとで)どの程度までこの疑問を掘り下げてみたか、どのようなイメージを良しと固めてまた前線に戻ったか、このことは、次の戦場では彼らの生死を左右する大きな要素になるかもしれないのだ。



これより、特にことわる場合を除き、量を議論する必要がなく作用の源となるものを指し示す場合は、「電場」、「磁場」という言葉を使う。スカラポテンシャルと傾き、ベクトルポテンシャルと回転、それぞれについては都度考えなおす。量としては、「電界強度E」「D:ディー(え?電束密度とかバカにしてんの?)」「H:エイチ(これは磁界と言うしかないだろう)」「磁束密度B」を用いる。また、電磁波に関してはEH対応のままで、電磁波以外の物理的な問題についてはEB対応による表現もある。微分および積分にはフーリエ変換の特性を使う(⇒ フーリエ変換の解析的な利用)。すなわち正弦波を複素数に置き換え、定常状態の作用素だけを扱う(タイムドメインは出てこない)。(⇒ 複素数とツール)。


Back List














































Back List


発生と伝搬
(偏微分方程式と[一般の波動方程式][マクスウエルの波動方程式][電信方程式]については ⇒ 「偏微分方程式と波動方程式」へ。)



【電磁波の伝搬】

マクスウエルの方程式の主体は、それまでに実験的に求められていた2つの法則である。
磁束密度 B でなく磁界強度 H に統一してみると比較的すっきり見えると思う。(*1)
瞬時値とかではなく表面的な現象をとにかく確認したいので、以下、フェーザ(フーリエ)表示でタイムドメインを消してしまおう。

<アンペールの閉磁路法則>
・電流は、導線の周囲に発生する一定の現象の源泉である。
・面積 s の周囲の閉曲線 c 上で起こる現象 H の合計は、s を通る電流 J の合計と一致する。
integc H dL = integs J ds
s および c を 0 に近づけて、
integs J ds → J
integc H dL → ∇ X H
と書けば、空間に関する微分形では、
∇ X H = J

<ファラデーの電磁誘導の法則>
・変化する磁界は、その周囲の導線に起電力を発生させる。
・面積 s の周囲の導線 c に発生する電界 E の合計は、s を通る磁界 H の合計の時間的変化分と一致する。
integc E dL = -jωμintegs H ds
      (from: V = -dB/dt = -μdH/dt = -jωμH)
s および c を 0 に近づけると
integs H ds → H
integc E dL → ∇ X E
と書くことができるので、空間に関する微分形では、
∇ X E = -jωμH

そして、このふたつの法則(ここでは周波数ドメインで表されている)が別々に存在することになぜ不満を持ったのかはわからないが、ファラデーの電磁誘導の法則に、静電誘導の時間的な変化によって発生する変位電流を、誰かが新しく(たぶん試みに)追加した。
J = dD/dt = jωεE
損失がある場合は導電率を σ として、
J = σE + jωεE(= jωε'E:ε'は複素誘電率)(*2)
とすれば良い。

∇ X H = jωεE
∇ X E = -jωμH
こうなるとたしかに電界と磁界はたすきがけになり、相互に作用が続くのかもしれない。だがこれは本当にどこかに向かって伝搬するのだろうか。
ω^2με を k^2 とおくと、
∇ X (∇ X E) = k^2E
∇ X (∇ X H) = k^2H
ベクトルの性質 A X (B X C) = B(A・C) - C(A・B) より、
∇(∇・E) - ∇^2E = k^2E
∇(∇・H) - ∇^2H = k^2H
共に左辺第一項は0であるから(∇・E = 0:電荷無し)(∇・H = 0:磁荷無し)、
∇^2E + k^2E = 0
∇^2H + k^2H = 0

このあたりで、賢い人たちは、
いまだ何ひとつ手がかりが示されないことに、ちょっとキレはじめているはずだ。
そりゃそうだ。
誰かが勝手に自分のルールで自国の言語で組み立てたパズルを、
何ひとつ理解していない俺がその筋書きどおりにコピーして見せただけだからだ。
そうでない人も、「..になる。」などという言い立てを決して信じてはいけない。
こんなもの、何も説明してはいないのである。

フェーザ(フーリエ)表示でタイムドメインを消しただけではダメだ。
ならば次は、1次元のフェーザ(フーリエ)表示としてみよう。
どうせ俺達の仕事の大半は回路やケーブルを伝って「流れる」のだし、このスカスカの頭の中だってやっと1次元くらいのものだから。

まずは電界について、仮に、z軸に垂直で平面的な電界(x方向にもy方向にも大きさは変わらない)と仮定すれば、
δ/δx = 0 、δ/δy = 0
よって、x方向性成分 Ex は以下のとおりとなる。
δ^2Ex/δz^2 + k^2Ex = 0
この解は正負両方向の関数の和なのだが、
Ex = Aexp(jkz) + Bexp(-jkz)
仮に(なんでもいいけど)このように正弦波としておくと幸せになれるようだ。(⇒ 「偏微分方程式と波動方程式」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
| 一時的にタイムドメインを覗いてみると(exp(jωt)をかけて各項の実数部を見てみると)、
| cosω(z√(με)+t)
| のように、ω でくくられた変数が、位置に関する量と時間との和になっている。
| すなわち式の右辺第1項は z の負の方向に、第2項は正の方向に、速度 1/√(με) で「伝搬」する波を表す。
| ただし何が「伝搬」しているのかはまた別の話である。(*3)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方、このときの磁界は、この電界 Ex と、ファラデーの電磁誘導の式のy方向1次元
Hy = -(1/jωμ)δEx/δz
から、
Hy = (1/√(μ/ε)){-Aexp(jkz) + Bexp(-jkz)}
になるのだが、こちらには係数が付いている。この係数は電界 Ex と磁界 Hy との振幅の比であることから波動インピーダンスと呼ばれ、伝送路の特性インピーダンスと同じ次元を持っている。特性インピーダンスは、直接測定するような物理量ではなく二次的な指標である。波動インピーダンスも、光速との間の単位合わせに挿入される人工的な数値である。
η = 1/√(μ0/ε0) = 120π



【電磁波の発生と放射】

ここまでは波源の見えない場所での電磁波、すなわち電磁波の伝搬を考えてきた。ではアンテナなど波源に近い領域で、電磁波の発生と放射についてはどうなのだろう。その場合、波源にはEでもHでもない値(例えば電流)を置くことになるが、それはこの偏微分方程式が非斉次になるということだ。また、家の近くにあるアンテナの形などからすると、電流の方向とは異なる方向に電磁波は放射されるようだ。ならば電界や磁界は波源からどのように発生して、単独で外側に向かって伝搬し始めるものなのか、どのような空間インピーダンスでにじみ出し、なぜどの辺りから電磁波になってゆくのか、できれば知っておきたいものだ。だが、これまで1次元でやっとお茶を濁してきた俺のおつむにこの問題は重すぎた。カシコい俺は、「すみませんあとで必ずやっておきます」という例のセリフを残し、途中の計算やなにかをしれっと蹴っ飛ばすことにした。今さえよければおおむねよろしい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
| ・電流 J との角度によって式は変わるが、これを最も振幅が大きくて式も簡単になる垂直方向にとり、距離 r の地点とする。
| ・電流 J は距離 r に比べ充分に短い L の長さをもった電流 I とする。(JdV = IL)
| 電流と同じ方向の電界:
|  E = (jηIL/4π)exp(-jkr) (k/r + 1/jr^2 - 1/kr3)
| 電流と r とに垂直な方向の磁界:
|  H = (jIL/4π)exp(-jkr) (k/r + 1/jr^2 - 0)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

式は k と r のみで表わされる3つの項に分かれているが、kr=1 のときにこれらは同じ値となり、それに比べて r が小さいときは第3項と第2項が、r が大きい時は第1項がそれぞれ優勢になることがわかる。第3項は静電界、第2項は誘導電界と誘導磁界で、共に電場または磁場に関わる単独の現象と同じものである。そして第1項が、先に確認した伝搬する電磁波になっている。
k = ω√(με)
λ = 2π/k
なので、書き直すと、
r << λ/π のときに静電界と放射電界/放射磁界
r >> λ/π のときに放射電磁界
が支配的に見えてくるということである。
また、放射電磁界が優勢な場合の空間インピーダンスは、
η = 1/√(μ0/ε0)
であって、これは波源が見えないとして計算した場合のものと同じである。

では、小さな J=IL とは現実的にはどんなものなのだろうか。よく例に出される「微小電気双極子」は反対の極性を持つ1対の電荷で、作る電界は、その間の直線か少し広がる曲線の集まりである。「微小」とは波長より充分小さいという意味だそうだ。指向性は、上の結果から、双極子の垂直方向には360°同じように強く、双極子の延長方向には弱いものになる。その絵は、双極子を縦とすれば、これを中心にドーナツ型(またはりんご型)、あるいは輪切りにして8の字が横になった形に描かれている。
さて、問題はここから半波長ダイポールアンテナへの展開である。端で全反射している伝送路をあるところから(例えば90度に)開く、ということに関しては、定在波の電流電圧分布もイメージできるし空間に向かって消費したいというアンテナの気持ちもわかる。だが、これを微小電気双極子の集まりだとして放射を計算することについて、俺は理解できていない。90度開く前に電気双極子の相手であった対向線路の一部分は遠く離れて微小ではなくなってしまうのだし、導体である線路に沿って(線路上に)電気双極子などできるわけがない。したがって、半波長ダイポールアンテナの指向性として、微小電気双極子のものを殆どそのまま大きくしたようなパターンなど俺には見えてこないのである。(注:威張っているわけではなく自分のアホさを笑っているのだ..。)(⇒ 「アンテナ」






(*1)
この節は、E と H とを比較している。よって、
B = μH
D = εE
と並んでいるのだが、
B = μH
E = D/ε
頭の中がこちらの並びになっているほうが、式から離れた作業(測定など)では運に恵まれることも少なくないはずだ。

真空の空間インピーダンス 1/√(μ0/ε0) とそこでの光速 1/√(μ0ε0) に使われる値はこの ε0 と μ0 だけである。ε と μ の最低値で真空中の光速が決まるように見えるかもしれないがそれは逆である。ε0 と μ0 はともに物理定数などではなく、真空中の光速に D と H を関連づける人工的な値だ。実際に ε0 は光速から定義される 1e7/(4πc^2) であって、μ0 は 4π1e-7 という、いずれも単位合わせの値に過ぎない。なので上の式でも ε と μ は添え物である。俺達が気にすることではあまりない。



(*2)
「誘電率は複素数なので」などというのはおそらく言いがかりの類だと思う。(⇒ 複素誘電率
誘電分散や漏洩電流など減衰に関わる量も含め、1つの複素数 ε˙ にまとめて計算できれば楽になるかもしれない、ということだ。
したがって屈折率も同様。



(*3)
位相速度とは波が進んでいる「ように見える」速度であって、実際にはどのような物質も、定常状態からの変化も(したがって情報も)位相速度でそのまま進むわけではない。位相速度には、何かが伝わる「速度」としての意味はあまりない。それでも位相速度は、アンテナの共振波長を決め、真空に対する曲がり具合:屈折率:を反映し、孤立波や波頭の速度の最大値と一致する。

群速度は、異なる周波数の加算によって合成された波(⇒ (付録)加法定理)の包絡線:うなり:の速度であり、位相速度に周波数依存性がある場合、群速度は位相速度と一致しなくなる。いわゆる「真空中の光速」として速さが制限されるのは(伝わる「速度」として意味があるのは)孤立波や波頭が進む速さとしての群速度である。群速度は、普通は位相速度より少し遅くなる程度だが、机上であれば以下のような強引な仮定によっていくらでも夢想することは可能である。
・位相速度の周波数依存性を正にすると(実際は負)...、
  ... 包絡線の速度は位相速度を超える。
  ... さらに正の依存性を上げて波数が同じ(δk=0)になると、包絡線は全域で一定になりその値は時間的に変動する。
  ... さらに正の依存性を上げると、包絡線は反対方向に進む。
・同じ周波数(δω=0)で位相速度の異なる波は波数が異なるので加算すると包絡線が生じ、その包絡線の速度は0になる。
・群速度とは異なるが、同じ周波数で進む反対向きの波の加算は合成波自体の一部または全体が止まって見える(定在波)。

また、限定的な条件の下であれば群速度は「真空中の光速」を超えることもあるというが、これは俺にはさっぱりわからない。


Back List














































Back List


伝送路と電磁波
(偏微分方程式と[一般の波動方程式][マクスウエルの波動方程式][電信方程式]については「偏微分方程式と波動方程式」へ。)



まずいくつか確認しておこうと思う。異なる製造業の現場では確立した常識のように扱われているローカルなアナロジーが、もしかしたら伝送路の上では摩擦を起こすことになるかもしれないからだ。

<@半導体のプロセス設計>
正または負の電荷によって経路を描いたり、移動度(cm^2/Vs)を思い浮かべたりしないようにしなければならない。移動度は担体個体の速度だが、それは重なり合って直流電流の大きさを決める量である。また、導体としては充分な担体が存在している媒質(金属やプラズマ)を考えなければならない。さらに、入り口から入った担体が中の担体を押すことによって出口から別の担体が押し出される、という拡散のような考え方も伝送路とは区別されなければならない。

<@分布定数回路やディレイラインの定数設計>
真空中の電磁波の伝播と、分布定数回路やディレイラインの遅延とは連続的に説明されなければならない。しかし、電磁波は分布定数回路(電信方程式)で表現される回路網を物理的に通っていると言えるのだろうか。電荷に依存するのか、どうやって伝搬するのか、これらについての様々な言説を簡単に信じてはいけない。

<@電子部品の設計>
マクスウエルの方程式で言う「変位電流(displacement current)」とは、コンデンサなど導体の対向した素子に誘起される電荷を特に表そうとするものではない。





高周波を扱う回路では、比較的短い結線であっても伝送路として扱わなければならないことがある。また、伝送路ではほぼ電磁波のルールによって「何か」が線路方向に伝播する。それは伝送路が電磁波を放射したり受けたりするアンテナにもなりうるということである。RFはもとより、ロジック、電源、オーディオなどにおいても、伝送路は避けて通ることのできない考え方だ。扱われる周波数の波長が部品や回路のサイズに近づくにつれ、伝送路を考慮した設計は製品設計の重要なポイントになる。そしてその伝送路の仕事は、エネルギーや情報を運び、それを終端で取り出してもらうことである。正しく扱ってやらないと、エネルギーの投入/伝搬/取り出しを効率よく実現することはできない。うまく使ってやれなかった分は悪さもする。

もうひとつ、波の伝播とは担体の移動ではない。近くの担体との相対的な変位が伝播するということである。実際、弦の振動や水面の波の伝播は材料や水の移動を伴わない。波が伝搬している途中の適切な場所では、これを消費してエネルギーを得ることはできる。うまく消費すればそこで波は消えるのだが、消費されなかった分は反射あるいは通過してまた伝搬する。伝送路では、担体の変位とは導体に電荷が偏在することであって、伝搬する波は電磁波にとてもよく似ている。マクスウエルの波動方程式と同じような形の波動方程式をもって同じように伝搬するのである。伝送路の波動方程式は「電信方程式」と呼ばれる。

別の側面でも考えてみよう。伝送路の端で、それを構成する2本の導体の片方から電荷を引き抜き、それをもう片方に押し込むという作業を行うとする。これによって、逆極性の電荷がその近傍の両方の導体に偏在することになるが、偏在した逆極性の電荷の間にはそれらを結ぶ電界が(伝送路に垂直に)できているはずだ。どんな元の作業も正弦波または正弦波の重なりで表すことができるので、この電界はなるほど電磁波の波源になると納得しても良いだろう。

これらを(モヤモヤも含め)まとめて包み込み、俺達にもイメージできる単純な考え方として提供されるのが分布定数回路である。伝送路では、R と L とを直列に、G と C とを並列に並べた分布定数回路が、伝送路の等価回路として用いられる。(⇒ 「偏微分方程式と波動方程式」の「電信方程式」)
"Distributed parameter circuit" is used to analyze electromagnetic phenomena using an electric circuit approach.
(分布定数回路は、(配線やケーブルを伝わる信号の)電磁的な振る舞いを、回路からのアプローチをもって解析するために用いられる。)
その回路図からは直感的に、充放電による電荷の移動とエネルギーの伝播との類似性が想像できるだろう。たとえば伝送路の C や L を大きくしてゆくと、終端の波形はたしかに遅れて観測されるし、そのような現象を見積もるため実際の伝送路を対称に考案された様々な近似式はある極限で必ず CL = με(LとCは単位長さあたり)となって伝播速度を「真空中の光速」まで連続的に表してくれる。現実はこのアホな俺までも勇気づけてくれるのだ。

実際にLCR分布定数回路(伝送路)から得られる電信方程式については、
 ⇒ 「偏微分方程式と波動方程式」 ⇒「電信方程式」
 ⇒ 電信方程式の近似解
などを参照のこと。



ただし、俺にはまるでわかっていないことがある。
すなわち、
・「真空中の光速」に近い速度で進むのは電磁波または電場/磁場の何なのか
・伝搬に影響するのは近傍界なのか
・電磁波の伝播する空間に電荷が無くてもよいのはなぜか
・導体、共通GNDの実体が想像できない
などなど、電磁波と分布定数回路とを連続的にイメージすることが全然できていないのだ。
いないのだが..俺はこんなことではくじけない。これも蹴っ飛ばすことにした。






【参考:真空中の電磁波と分布定数回路との比較(無損失)】
(無損失として良いかどうかについては問題があるかもしれない。 ⇒ 「偏微分方程式と波動方程式」
特性インピーダンスと伝播速度は、分布定数回路と真空の電磁波との間に以下の様な関係がある。
・特性インピーダンス
    分布定数回路 √(L/C) :LとCは単位長さあたり
    (ガラエポ基板の例で L=360nH/m,C=120pF/m として、55Ω)
    真空(電磁波) √(μ0/ε0) = 377Ω
    (よく覚えられている値 120π は、ε0 = 1e7/(4πc^2) を 1e-9/36π で近似した場合。)
    (ε0 も μ0 も光速と単位を合わせるための数値である。)

・伝播速度
    分布定数回路 √(1/(CL)) :LとCは単位長さあたり
    (ガラエポ基板の例で L=360nH/m,C=120pF/m として、1.52e8m/s)
    真空(電磁波) √(1/(ε0μ0)) = 2.998e8m/s



【参考:実際の線路を L, C, μ, ε で近似】
L、C、Z、の近似は、概算に便利な式として log10 で変換され紹介されることも多い。以下に整理しておく。
--- 真空の平行線路 ---
r << d のとき、
L = (μ/π)log(d/r) H/m
C = πε/log(d/r) F/m
と近似され、
L = 4e-7 log(d/r) = 0.92 log10(d/r) H/m C = 2.78e-11/log(d/r) = 12.1/log10(d/r) F/m
Z = √(L/C) = 1/π √(μ/ε) log(d/r) = 119.9 log(d/r)
  = 277 log10(d/r) Ω
--- マイクロストリップライン ---
良く使われる近似式をひとつだけあげておく。
ε と h は誘電体の誘電率と厚み、t と w はラインの厚みと幅である。
Z = 87/√(ε+1.41) log(5.98h/(0.8w+t))



(確認用:量の次元)
(L,C,G,R は伝搬方向単位長さあたりとする)
μ, L          T(-2) L(+1) M(+1) I(-2)
ε, C          T(+4) L(-3) M(-1) I(+2)
R             T(-3) L(+1) M(+1) I(-2)
G             T(+3) L(-3) M(-1) I(+2)

LC            T(+2) L(-2)
L/C, R/G      T(-6) L(+4) M(+2) I(-4)
G/C, R/L      T(-1)
RC, LG        T(+1) L(-2) 
SQRT(LC)      T(+1) L(-1)

SQRT(L/C)     T(-3) L(+2) M(+1) I(-2)
 
ωC/G, ωL/R    ---



Back List














































Back List


電信方程式から F,Z,S行列



1.電信方程式をもう一度引いてくる

(⇒「伝送路と電磁波」
(⇒「偏微分方程式と波動方程式」⇒「電信方程式」)

電信方程式は、損失の無い一般の波動方程式やマクスウエルの波動方程式と似たような形をしてはいたが、少しだけ違っていた。
電圧ではこんな具合である。
δ^2v/δx^2 = LCδ^2v/δt^2 + (LG+CR)δv/δt + RGv
これを、フェーザ(フーリエ)表示(または作用素⇒複素数とツール)にすると、以下のようになる。
d^2V(x)/dx^2 = (LC(jω)^2 + (LG+CR)jω + RG)V(x)
d^2V(x)/dx^2 = (R+jωL)(G+jωC)V(x)
(回路方程式からフェーザ(フーリエ)表示で作っても同じ。 ⇒ 「偏微分方程式と波動方程式」
(電流も同様。)
すなわちフェーザ(フーリエ)表示としてしまえば、電信方程式も、損失の無い一般の波動方程式やマクスウエルの波動方程式の場合と同じ形にすることができる。
d^2V(x)/dx^2 = γ^2V(x)
d^2I(x)/dx^2 = γ^2I(x)
..... γ^2=zy、z=R+jωL、y=G+jωC
..... R: 抵抗、L: 単位長さあたりインダクタンス、C: 同キャパシタンス、G: 同コンダクタンス



2.その解を行列に整理する

電信方程式の一般解も、他の波動方程式の場合と同様、
V(x) =  Aexp(−γx) + Bexp(γx)
I(x) = (Bexp(−γx) - Aexp(γx)) / P
..... P=sqrt(z/y)
という形であってよい。
x=0 の境界における条件(Vin=A+B、Iin=A/P-B/P)より A、B を求め、
さらに Iin と Vin で項をくくれば、2つの式は [Tout] = [K][Tin] の行列 [K] に整理できる。

【参考】 はじめから別の係数 C D を使って双曲線関数にまとめておけば計算は少し楽になる。
 V(x) = Aexp(−γx) + Aexp(γx) - Aexp(γx) + Bexp(γx) + Bexp(-γx) - Bexp(-γx)
2V(x) = Aexp(−γx) + Aexp(γx) - Aexp(γx) + Bexp(γx) + Bexp(-γx) - Bexp(-γx) + Aexp(−γx) + Bexp(γx)
2V(x) = 2(A+B)cosh(γx) + 2(B-A)sinh(γx)
(I(x)も同様)
(A+B→C、B-A→D とする)
V(x) =   Ccosh(γx) + Dsinh(γx)
I(x) = -(Dcosh(γx) + Csinh(γx)) / P
(x=0境界の条件は Vin=C、Iin=-D/P)


いずれにしても行き着く先は同じ。
V(x) =  Vincosh(γx)   - PIinsinh(γx)
I(x) = -Vinsinh(γx)/P +  Iincosh(γx)

このままで、2式をまとめた係数は [Tout] = [K][Tin] の行列 [K] の形になっている。
 cosh(γx)     -Psinh(γx)
-sinh(γx)/P     cosh(γx)



3.F行列へ

この行列の変数 [Tout] [Tin] は、回路の出入口(添字outとin)それぞれにおける電流と電圧のペアである(他方Z行列やY行列における出入口の変数には電流か電圧どちらかだけが振り分けられる)。このことは、別の伝送路を縦続接続した場合でも、この行列の接続点における [T] は2つの伝送路で共通である事を示している(もちろん値自体は接続することによって変わるのだが)。すなわち、[T1]=[K10][T0] と [T2]=[K21][T1] は、[T2]=[K21][K10][T0] にまとめることができる。そうか、ならばこのまま使えばいいじゃないか、と俺なんかは思ってしまうのだが、実際のF行列はこの逆行列である。左右を逆転したもの [T0]=[F01][F12][T2] が選ばれたのは、向きに馴染めない人が多かったからだろうか。(これはいい加減なことを言ってしまったかも。)(さらに余談だが行列式がちょうど cosh^2-sinh^2=1 であることのあたりまえさにも俺は全く気づいていない。)
 cosh(γx)      Psinh(γx)
 sinh(γx)/P     cosh(γx)



4.F行列を基(Fundamental)にしてZ行列へ

F行列は、上述のとおり要素が電信方程式そのものでもある基本的な2端子対行列なのだが(縦続接続が行列の掛け算で済むなどの特徴もある(*1))、その要素には、無次元/インピーダンス/アドミタンスが混在している。したがってこのままで回路の何かを評価するのにはあまり向いていない。これに対し、Z行列の各要素は、インピーダンスという身近な値で回路の特性を表現している。F行列とZ行列との間は簡単な加減乗除でお互いの要素が変換でき、直接測定するにしても、電流振幅/電圧振幅/短絡/開放のいずれかによってポートを制限し、どちらかのポートの電流振幅/電圧振幅を測定する、という点では同じことである。テクニカルな選択以外ではF行列とZ行列の違いに頓着する必要はあまりない。そして実際に俺達が現場で扱うのはZ行列かS行列(これは後述)である。Z行列は、たとえばインプットインピーダンスやトランスファーインピーダンスとして(*2)、回路基板における電源パターンの評価には欠かせない指標を提供してくれる。
F行列の要素は「ABCDパラメータ」とも呼ばれる。
 A=cosh(γx)      B=Psinh(γx)
 C=sinh(γx)/P    D=cosh(γx)

Z行列はこの「ABCDパラメータ」から次のように変換される。
 A/C    (AD-BC)/C
 1/C     D/C

俺達も、深く迷うことなくこの間を自由に行き来すればよい。



5.F行列/Z行列/Y行列に加えS行列までを整理する

----- 行列が作用する対象はポートに現れる交流電流または交流電圧 -----

【F行列】(電信方程式からの基本行列)
行列要素の次元:Aは無次元(比)、Bは電圧/電流、Cは電流/電圧、Dは無次元(比)
非駆動側ポートの終端:Aは開放、Bは短絡、Cは開放、Dは短絡

【Z行列】
行列要素の次元:インピーダンス
非駆動側ポートの終端:開放

【Y行列】
行列要素の次元:アドミタンス
非駆動側ポートの終端:短絡


----- 行列が作用する対象はポートに対する入射波と反射波:交流電力波の平方根または交流電流波または交流電圧波 -----
【S行列】

行列要素の次元:無次元(比)
駆動側インピーダンス:定義された純抵抗(普通は50Ω)
非駆動側ポートの終端:定義された純抵抗(普通は50Ω)


ここにまとめたとおり、F行列/Z行列/Y行列を測定するためには、非駆動側ポートの短絡や開放が必要である。だが多くの場合、短絡や開放を行うということは、実際の動作とは異なる特別な状態を被測定系に強いるということでもあり、その回路によっては回復不能なダメージを与えてしまう可能性がある。さらに、周波数が高くなれば、端子やスイッチまたは配線に残るわずかなキャパシタンス/インダクタンスは無視できなくなり、終端の短絡や開放は不完全なものとなる。これに対してS行列は、実際に使用する有限の終端を用いて測定を行うという点で、高周波の測定に向いているとともに、わかりやすく利用されやすいというメリットも持っている(*3)。そしてS行列は、F行列/Z行列/Y行列と相互に変換することも可能である(電流の波なのか電圧の波なのか√(VI)の波なのか、および両ポートの終端抵抗値がいくらか、によって規格化係数の着脱は必要だが)。では、いかなる場合もS行列だけを測定しておいてそれを必要に応じ変換すれば事は足りるのか、というとそんなことはない。例えばZ行列のある要素(*2)が知りたいときなど、注目する周波数はわかっていてそれほど大きくないことがある。この場合、実際に非駆動側を開放して電流と電圧を測定するのが直接的であり、方向性結合器も必要ないし、目的の測定値については明らかに精度も高くなるのである。






(*1)
複数の回路の接続を行列の和や積として計算する場合、Z行列は直列(多段)接続に、Y行列は並列接続に、F行列は縦続(カスケード)接続にそれぞれ使われる。だが2つの回路の縦列接続に限れば、少々面倒にはなるがS行列の要素を使っても計算することはできそうな気がする。回路を通過する成分は2つのS行列から各要素を拾ってくればその積で表すことができるし、それら成分を合計したものが各ポートの入射波と反射波になっているはずだからである。S行列を規格化するときの終端抵抗を、接続する側の回路の特性インピーダンスに合わせておけばそれで良いのではないだろうか。だがこれは通用しない。なぜならポートに接続する側の回路にもあたりまえに周波数依存性はあって、特性インピーダンスとして規格化することはできないからだ。いやそもそも、だからこそこのような作業を始めたわけで、その出所はいま対象としているS行列の周波数依存性と同じ..という間抜けな話にちょっとハマったようである。



(*2)
【インプットインピーダンス:開放駆動点インピーダンス:Z11:の例】
例えば、回路基板上で注目するLSIの、同一電源ピンとそのパスコンが集約されるあたり(ポート1)の高周波電流と電圧を評価する。これはポート1から見た回路基板の電源/GND間インピーダンスと言える(多くの場合ポート2でその基板と電流源とが接続部されていると考えれば良い)。主に当該LSIが自身の消費電流(スパイクやラッシュ)によって被る電圧変動を、許容電圧や誤動作の観点から評価するために用いられる。LSIパッケージと回路基板の浮遊キャパシタンス/インダクタンスによっては反共振が比較的低い周波数に出てくることもあり、周波数依存性が重要である。

【トランスファーインピーダンス:開放伝達インピーダンス:Z21:の例】
例えば、回路基板上でノイズ源となることが危惧されるLSIの、同一電源ピンとそのパスコンが集約されるあたり(ポート1)を高周波電流(消費)源として、基板端を含む基板上の特定の(分布をとる場合は全ての)電源/GND対向部分(ポート2)における開放電圧との電圧/電流比。主に回路基板から放射されるEMIを評価するために使われる。あるいは、ポート1は同じで、ポート2を被害が予想される別のLSIの電源端子にとり、ポート2に接続される方のLSIで起きるかもしれない誤動作を予測するためにも用いられる。Z21の次元ももちろんインピーダンスだが、Z11と違って電流と電圧は異なる場所のものである。



(*3)
S行列のひとつの要素に「S21」がある。これは片方のポートからもう片方のポートへの透過特性で、周波数依存性が評価に直接資する事から伝送路(高周波配線)の見積や評価に使われる。なにより |S11|^2+|S21|^2=<1 から減衰が直接見えるので(終端は純抵抗)、今では名称がひとり歩きするくらいポピュラーになった。しかしその分、実際に使用する場合は、上記5.と(*1)に書いたような注意を怠ってはならない。



Back List














































Back List


S行列の利用


ーーーーー S行列の他の行列との違い ーーーーー

前項の5.に書いたとおり、S行列とZ(F,Y)行列との間には根本的な違いがある。
同じ2端子対で表わされ相互に変換することも可能なのだが、用途や実体は別のものとして整理しておかなければならない。


【Z行列】
・行列が作用する対象:ポートの交流電圧と交流電流: V, I
 -- その用途:ポートの電流値または電圧値
・行列要素の次元:インピーダンス
 -- その用途:回路や伝送路の特性値/物性を評価する。またはこれを含む系全体の動作を見積もる。
・非駆動側の終端:開放

    -----|‾‾‾‾‾‾‾|-----
         |       |   
    -----|_______|-----

     V1     [Z]     V2
     I1             I2

|V1| _ |z11 z12||I1|
|V2| ー |z21 z22||I2|



【 S行列 】(ZrefとZloadの定義要)
・行列が作用する対象:波:ポートにおける入射波または反射波:交流電圧波または交流電流波または√交流電力波: a, b
 -- その用途:直接にはあまり無し
・行列要素の次元:無次元(比)
 -- その用途:回路や伝送路の性能を表す。またはこれを含む系全体の動作を見積もる。
・駆動側のインピーダンス:定義された純抵抗(普通は50Ωがデフォルト)
・非駆動側の終端:定義された純抵抗(普通は50Ωがデフォルト)

    --Zref--|‾‾‾‾‾‾‾|-----
 Vsource    |       |   Zload 
    --------|_______|-----    ... (テブナン型ソースの例)

     a1->   [S]   <-a2
     b1<-         ->b2

|b1| _ |s11 s12||a1|
|b2| ー |s21 s22||a2|






ーーーーー S行列が作用する対象:波:について ーーーーー

回路または伝送路のポートにおいても、
波動方程式の解はやはり逆方向に進む2つの波で構成される。
その2つの波をそれぞれを a と b とする。
V =      (Aexp(-γx)+Bexp(γx)) =      (a+b)
I = 1/Zo (Aexp(-γx)-Bexp(γx)) = 1/Zo (a-b)

S行列が作用する直接の対象はこの波 a と b なのだが、
S行列の目的は、この逆方向の波を分離したまま求めることではあまりない。
前項にも書いたが、高周波で有利な測定方法(方向性結合等)を使って回路や伝送路のS行列を測定し、
行列要素の値をもって回路や伝送路を評価する、そのことがS行列の主眼と言える。
もちろんS行列からでもポートの電圧値や電流値を間接的に見積もることはできるのだが、
測定/見積それぞれの接続インピーダンスは複素数か実数か、どのように補正するか、などひと手間が必要である。
Z(F,Y)行列では電圧値や電流値が行列の作用する直接の対象であるという点は大きな違いだろう。

【電圧波 a b (V)】
V1 =          (a1+b1)
V2 =          (a2+b2)
I1 = (1/Zo)   (a1-b1)
I2 = (1/Zo)   (a2-b2)

さらに係数を I, V のどちらに振り分けるかによって、a b が表す「波」の種類、次元、値が変わる。

【電流波 a' b' (A)】
V1 = Zo       (a'1+b'1)
V2 = Zo       (a'2+b'2)
I1 =          (a'1-b'1)
I2 =          (a'2-b'2)

【√電力波 a" b" (√W)】
V1 = (√Zo)   (a"1+b"1)
V2 = (√Zo)   (a"2+b"2)
I1 = (1/√Zo) (a"1-b"1)
I2 = (1/√Zo) (a"2-b"2)

この「波」(a b a' b' a" b")を媒体にして回路や伝送路の特性を表すのがS行列である。
Zref1=Zo=Zref2 の場合、3種類のS行列は定数倍で同じものになる。
一般的に【√電力波 a" b"】が多く用いられているのはおそらく以下のような理由からだろう。
  【√電力波 a" b"】であれば、
  ・ポートでの a"^2 や b"^2 が反射や消費を表すのでイメージしやすい。
  ・基準インピーダンス Zref が複素数であっても、a"^2 や b"^2 と電力とは対応する。



また、上の図で回路部分がそっくり無いとしてみると、
【√電力波 a" b"】のことが俺の腑にも少しだけ落ちるかもしれない。
回路の無くなった接続点(V=Vright+Vleft,I=Iright-Ileft)では次のように書ける。

【電圧波 a b (V)】
a = Vright = (V+IZref)/2
b = Vleft  = (V-IZref)/2
    ○  a     +    b       =    V
    ☓  a     -    b       =    IZref
    ☓ |a|^2  -   |b|^2    =    VIZref

【電流波 a' b' (A)】
a' = Iright = (V+IZref)/(2*Zref)
b' = Ileft  = (V-IZref)/(2*Zref)
    ☓   a     +    b       =    V/Zref
    ○   a     -    b       =    I
    ☓  |a|^2  -   |b|^2    =    VI/Zref

電流波も電圧波も、反射/消費を直接表してはいない(V=IZrefで接続点の値が最大にならない)。
では√電力波であればどうだろうか。

【√電力波 a" b" (√W)】BR>
a" = √(Vright*Iright) = (V+IZref)/(2*√Zref)
b" = √(Vleft*Ileft)   = (V-IZref)/(2*√Zref)
    ☓   a     +    b       =    V/√Zref
    ☓   a     -    b       =    I√Zref
    ○  |a|^2  -   |b|^2    =    VI

このように、(√電力波)^2 は、エネルギーの保存や反射/消費といった概念を保っている。
(反射はこのテーマで最も重要な現象のひとつである。反射するのは電力だと考えてしまえば良い。)
現場で特別な断りなく用いられるS行列は(他の様々な定義も否定されはしないが)、多くはこの波を対象にしている。
(ただ、電流波や電圧波も、√電力波の加減算の定数倍である。)
そして√電力波であれば、接続点を通る電力は V=IZref (b=0) のときに最大値
V^2/Zref = I^2Zref
をとり、これは Zref で消費される電力でもあり、b=0 なのだから Zload で消費される電力でもあり、であれば Zload=Zref なので、
このとき Vsource が(S行列が基準とするのはあくまで a であり Vsource ではないので余計なことかもしれないが)、
V/Vsource = 1/2
になるということもここでまた確認できるのである。



Back List














































Back List


複素誘電率

実数のままでも、電圧に対する電流の進角を θ とすれば、
P = IVcosθ
の cosθ は損失の目安である。
だが、むかしどこかのだれかが「複素誘電率」なるものにこの任務を負わせようと思いついたことから、おそらく俺の渾沌は始まった。
(以下注意:比や乗除を議論するので、正弦波への作用素としてフェーザ(フーリエ)表示:複素数:を使う。)
(どの時点で exp(iωt) をかけ合わせ実数部または虚数部を瞬時値として見直してもかまわないが、ここでは意味が無い。)



【tanδ (=Df) が使われる訳】(*1)

まずは背景について考えねばなるまい。これが巷で使われ始めた頃は、関連する課題の多くが誘電体の物性に関わるものだった。
(ただその誘電分散も、周波数特性を表す事が本来の目的であり、分極の遅れを複素誘電率に負わせたかったわけではない。)
このあたりのコンテキストを整理してみよう。
誘電体(キャパシタ)の電流、
I = VjωεS/d (Vは実数軸上とする)
は、誘電率 ε を ε˙=ε+jε' に変更すれば、それだけで他の物理量または回路要素を導入することなく、
電圧電流の位相差 θ=π/2 からの遅角 δ で表すことができる(ε˙の実数軸は電流電圧の虚数軸)。
I = Vjω(S/d)(ε+jε') = Vjω(S/d)√(ε'^2+ε^2)exp(jδ)  ... sinδ=ε'/√(ε'^2+ε^2) または tanδ=ε'/ε
実際には新しく ε' を追加しているのでこのままでは何をするにも面倒なままなのだが、
ε'<<ε (δ→0)
の場合に限定すると、
I = Vjω(S/d)(ε+jε') → Vjω(S/d)εexp(jδ)  
ε と ε' はひとつの複素数 εexp(jδ) となって(*3)、乗除べき乗や比の計算が楽になる。(*2)
(極座標表示では変数が2つ(ε が1つ、δ が1つ)にまとまる。)
なおこの近似では、V と同じ実数軸成分の損失電力 P は、
VI = V^2jω(S/d)εexp(jδ)
P = V^2ω(S/d)εsinδ
である。

ここまでをまとめると、要件の起点となった関係(元々が怪しいのだが)
ε˙=ε+jε' または ε' = √(ε'^2+ε^2)sinδ
は、さらに ε'<<ε (δ→0) の場合に限定することによって
ε'=εsinδ
に近似され、δ という変数ひとつが、効果/悪さ/損失/影響 を表現することになったのである。
すなわち、この δ に物理的な必然性など求めてはいけないのだ。

もう一点、δ は、偏角としての
ε'=εsinδ
というよりは、
ε'=εtanδ
として様々なシーンに登場する。「ε'はεに実数虚数比で依存する」みたいなビジュアルがこのことによって定着してしまったとしても、そうかなるほど、あまり噛み付く気にはなれないのである。

「tanδ (=Df) が使われる訳」、この時点で俺の結論は以下のとおりである(あとでまた修正する)。
・元々は誘電分散を表現しようとしたものと思われるが、その他の課題においても損失として扱われる。
・現在では、(誘電分散よりはむしろ)回路基板やケーブルの材料特性として定着している。
・演繹的に建て付けられたわけではないので、物性に関わる量として期待してはいけない。(*3)
・このコンダクタンス ωC' は、ωC と同様、ω に比例して大きくなってしまう。

---- 定義は ----
ε˙=ε+jε' ε˙=ε+jεtanδ ε˙=Dk-jDkDf
---- 電圧V(実数軸上とする)に対する電流Iは ----
I=Vjω(S/d)εexp(jδ)
---- 消費電力Pは ----
P=V^2ω(S/d)εtanδ=tanδωCV^2






【tanδ (=Df) と コンダクタンス G 】

電信方程式には、tanδ (=Df) に似た量として G がある。
これも回路基板やケーブルでは容量と並列に存在して減衰項を作る成分になるが、これらはどのような関係にあるのだろうか。

いきなり強弁で申し訳ないが(必然性がよくわからないので)、とにかく世間では、
先に定義した ε' を、分布定数回路で C と並列に存在するコンダクタンス G の源泉と見るのである。これはどういうことか。
(以下、G は伝搬方向単位長さあたりなので面積 S は幅 W に変える。)
G = ωε'W/d = ωεtanδW/d = ωCtanδ

まず、電信方程式の解
V(x) = Aexp(γx)+Bexp(-γx)
γ = √((R+jωL)(G+jωC)) = α+jβ
で減衰定数となる α は、高周波域にあることを条件に近似すると、
α = √(LC)(1/2)(G/C+R/L)
であった。(⇒ 電信方程式の近似解

次に、
近似した α を、Gに比例する項とRに比例する項とに分けて書き直せば、
α = G√(L/C)/2 + R√(C/L)/2
とも書ける。
この G を C で書き直す(最初の強弁に従って)(物性や本質とは無関係)。
α = ωtanδ√(LC)/2 + R√(C/L)/2
第1項だけを αg と命名して抜き出し、透磁率を1とし、さらに ε を分離する。
αg = ω(1/2)√μ0√(W/d)√εtanδ = ωK√εtanδ 
これは「誘電損失」としてたびたび紹介される式であるが、ほとんど意味は無いと俺は思っている。
・ 「ε' と ε との関係」というロジックで C に括られている。
・ 無視できない同じ変数を持つ第2項を分離している。
・ たとえ R=0 であってもこれだけが ε' に関わる損失ではない。
・ 物理的意味がほとんど無いまま √εtanδ が強調されている。


(確認用:量の次元)
(L,C,G,R は伝搬方向単位長さあたりとする)
μ, L          T(-2) L(+1) M(+1) I(-2)
ε, C          T(+4) L(-3) M(-1) I(+2)
R             T(-3) L(+1) M(+1) I(-2)
G             T(+3) L(-3) M(-1) I(+2)

LC            T(+2) L(-2)
L/C, R/G      T(-6) L(+4) M(+2) I(-4)
G/C, R/L      T(-1)
RC, LG        T(+1) L(-2)
SQRT(LC)      T(+1) L(-1)

SQRT(L/C)     T(-3) L(+2) M(+1) I(-2)

ωC/G, ωL/R    ---






【tanδ (=Df) と 電磁波】

損失のない1次元の波動方程式でも、解の誘電率に tanδ (=Df) を適用すれば同じ「損失」の効果が得られるのだろうか。

マクスウエルの波動方程式を満足する波動のひとつの項、
exp(kx)  .. k=jω√μ√ε
この ε に虚数 jε' を加えてみる。
√(ε+jε') = √{√(ε'^2+ε^2)exp(jδ)} ... ε'/√(ε'^2+ε^2)=sinδ
ここでも ε'<<ε という条件で近似すると
√(ε+jε') → √εexp(jδ/2)) = √ε{cos(δ/2)+jsin(δ/2)}
k = jω√μ√εexp(δ/2) = ω√μ√ε{jcos(δ/2+π/2)-sin(δ/2+π/2)}
すなわちこの波動自身が、減衰定数
ω√μ√εsin(δ/2)
で減衰することになる。(*4)
(比率は exp[xω√μ√εsin(δ/2)])

さらに(これも本質ではないので無視してよろしい)、
もう一度 ε'<<ε という条件のもとでいくつか近似すれば、減衰定数は、
ω√μ√εsin(δ/2) → (1/2)ω√μ√εsinδ → (1/2)ω√μ√εtanδ
分布定数回路の G を ε' で代筆した場合と同じような形にすることもできる。









(*1)
「電界 E に対して D=εE である。だから比例定数 ε も当然複素数で(正しくフェーザでも)、その実数部を分極による絶対値の比とし、虚数部は分極による位相の遅れとすれば良い。」...このような考え方は乱暴に過ぎる。



(*2)
例えば二乗根なら、
√ε˙ = √(ε+jεtanδ) = √{(ε/cosδ)exp(jδ)} = √{(ε/cosδ)(cosδ+jsinδ)} = √(ε/cosδ){cos(δ/2)+jsin(δ/2)}
一方、
(ε+jεtanδ) = (a+jb)^2
の実数部虚数部比較は面倒。



(*3)
実際、Df の周波数や温度に対する依存性は誘電率 Dk のそれに比べると桁違いに大きい。元々は、誘電分極の応答(誘電率の周波数依存性)を、低周波の配向分極からミリ波帯のイオン分極や電子分極まで表そうとしたものである。ε と ε' との間の依存性を主張するものではないということも忘れてはいけない。



(*4)
電界(電圧)に対する磁界(電流)の比(1/インピーダンス)が複素数になることにも注意する。
√(1/μ)√(ε+jε') → √(1/μ)√εexp(jθ/2) = √(1/μ)√ε{cos(δ/2)+jsin(δ/2)} ... ε/√(ε'^2+ε^2)=cosθ
(分布定数回路では元々複素数である。 ... √((G+jωC)/(R+jωL))  )



Back List














































Back List


アンテナ


アンテナは、給電線と空間というふたつの伝送路の間のマッチングデバイスであり、「電力-電磁波変換機」のようなものである。まずは、ともに単なる電線である給電線とアンテナとを比べてみよう。これらは異なるアプローチで構成され、別々の特徴をもって、別々の目的で使われている。

*給電線(伝送路)*
・分布定数回路として扱われる。
・無損失の場合かまたは周波数が充分高い領域では、分布定数回路の指標である特性インピーダンスのリアクタンス成分は無視できる。
・したがってその条件で、特性インピーダンスに周波数依存性は無い。
・特性インピーダンスの不整合点で反射が起こった場合、それは進行波と重なって定在波を形成し、投入したエネルギーは期待していない場所(給電線や電力生成部)で消費される。
・純抵抗で終端された場合(すなわち進行波だけの場合)、給電線上で進行波の電流と電圧は同相になる。反射波がある場合、反射波自身の電流と電圧は同相だが、電流と電圧にとっては固定端か開放端かが分かれるので、観測される波(=進行波+反射波)の定在波は、電流と電圧の位相は π/2 だけずれている。

*アンテナ*
・定在波アンテナでは、アンテナ線路上で反射波が定在波を作る(進行波アンテナについては後述)。
・したがって、アンテナ自身が放射抵抗によってこれを消費する。
・このことによって、定在波アンテナは、L、C、Rloss、Rr を(普通は直列に)接続した負荷として等価回路に表される。
 (Rloss:損失抵抗 Rr:放射抵抗)
・電流と電圧の位相は90度ずれる。

また、アンテナは、空間と接していることによって普通の回路部品とは異なる振る舞いを見せる。
L、C によるリアクタンス成分が 0 になる(共振する)周波数では、アンテナに投入される電力は Rloss と Rr で消費される。実際の共振点は、例えば半波長ダイポールアンテナの場合、アンテナ片側の長さが λ/4 より少し短いところにある(下記 j42.55 が 0 となるところ)。この共振点では、アンテナのインピーダンスは放射抵抗 Rloss+Rr となり、給電線はこの抵抗に対してマッチングをとらなければならない。給電線とアンテナとのインピーダンスマッチングがとれていないと、給電線に返る反射波が大きな定在波成分を作ることになる(VSWR>1)。
給電点はアンテナに特別な機能としてとりあげられる要素ではないが、実際にはインピーダンスマッチングや平衡(バランス)変換が必要になる点である。多くの場合、アンテナ上でのその位置はアンテナの(送信)入力インピーダンスを変える。






以下、実例を見ながらアンテナとは実際どのようなものなのかを整理してみる。ただ、正直わからないことが多い。その理由はおそらく、良く説明される半波長ダイポールの電流分布と電圧分布の図、これがさっぱり理解できないということだろう。(⇒ 「発生と伝搬」の終盤)
ともあれ(え?)、まずは線条アンテナ。

<半波長ダイポールアンテナ>
アンテナ線路の長さが片側ちょうど λ/4 である場合の半波長ダイポールアンテナは、Rloss が無いとして、
73+j42.55
というインピーダンスを持っている。片側の長さをこれより少し短くすることによってアンテナは共振し、リアクタンス部分が 0 になる。
アンテナから離れたところでは、電気力線は微小ダイポールのそれと良く似たかたちになる(なぜかはわからないが)。等方性(球状)アンテナに対する利得は 1.64(2.15dB) である。電磁波は線路方向には放射されず、したがって指向性を持つ。

<モノポールアンテナ>
半波長ダイポールアンテナの ”給電点を通ってアンテナ線路に対し垂直な面” は電圧が 0 なので、ここに導体があっても電気力線は形を変えない。電気力線は当電位面である導体表面に対し垂直に存在する。そうすると、半波長ダイポールアンテナの片側はこの導体に拠る鏡像として省く事ができる(なぜかはわからないが)。これは λ/4 モノポールアンテナと呼ばれている。
共振点のインピーダンスは半波長ダイポール 73Ω の半分、36.5Ω 程度。
導体(地面)に対して縦に使うので地表面での指向性は無いが上空に弱くなり、利得は意外に大きく半波長ダイポールアンテナの倍、3.28(5.27dB) になる。
携帯無線機などに用いられている。携帯無線機では、直線偏波ヘリカルとして小型筐体に収められているものもある。

<ループアンテナ>
折り返しダイポールを含め、1周の長さをλとして短絡したアンテナ。
ループ形状(円、三角、四角..)によってインピーダンスは異なる(折り返しダイポールの場合は半波長ダイポールの4倍で 293Ω)。
ループ面が形成されるのでその面も指向性に影響するようになる。
インピーダンス、利得、指向性などの設計自由度が高く、用途毎に色々な形状のものが使われている。
尚、その形状から似た名前ではあるが、「磁界型ループアンテナ」や近傍界用の「ループ形状のアンテナ」とは異なるものである。

<逆L、逆Fアンテナ>
アンテナの線路長は、共振させることや定在波を利用することの為に重要な設計要素で、電磁波の「放射」に必要な条件である。しかしもちろんそれを完全に保証するものではない。
例えば高さを落としたいためにモノポールアンテナの一部分を折り曲げると、曲げた先端部分の電流が地表やグランドプレーンと逆相であることから、この部分は電磁波を放射しにくくなる。ただ、全長によって共振や定在波の発生という状態を保っていれば、これもアンテナ(逆L)として機能する。このアンテナは、地表やグランドプレーンに垂直な部分が主に電磁波を放射する。
逆Fアンテナは、逆Lアンテナの開放端から λ/4 の点(電圧=0)を接地し、給電点を任意の点にシフトさせて整合をとったものである。



次に磁流アンテナをいくつか挙げる。
線条アンテナでは、微小電気双極子の交流電流が作る磁界が放射の第一歩だった。磁流アンテナでは、交流磁流が作る電界がそれにあたる。ここでは「磁流」は実際に作るものではなく、ある電界の形に対しその源として等価的に仮想するもの、と考えるのが良いと思う。そうすることによって線条アンテナと磁流アンテナとをうまく比較することができるからだ。

<スロットアンテナ>
導体板にスロットを空けたものである。スロットの長辺は λ/2、短辺はこれより充分短いとする。
(何らかの方法で)導体板のスロット長辺に垂直な電流を流した場合、電流を流せないスロットにせきとめられた電荷は長辺に溜まる(誘起される)。この電荷が作る電界の形からその源を磁流と考えて、スロットアンテナは磁流アンテナに分類される。仮想の磁流がスロットの中に、スロットの長辺方向に沿って存在する、と考えるわけだ。この磁流が半波長ダイポールアンテナの電流と同じ形状になる様スロットを開けることにより、半波長ダイポールアンテナと等価で対をなす磁流アンテナとしてスロットアンテナは機能する。

<パッチアンテナ>
充分大きなバックプレーン上に、薄い誘電体または狭い間隙を介してパッチが形成される。パッチのサイズは、例えば電流の流れる方向に λ/2 の長さを持っている。
パッチアンテナでは、向かい合うパッチとバックプレーンとに対して給電する。お互いの距離が近いのでこの間隙では線条アンテナのような電磁波を発生することはほとんど無い。しかしパッチの縁ではバックプレーンとの電界が外に向かって広がっており、それはスロットアンテナで働いたものと同じ種類の電界である。したがって、パッチの縁には仮想の磁流があると考えることができる。電流の流れる長さ方向の2つの辺に沿う磁流は互いに逆向であり、これらは打ち消しあう。一方、幅方向の向かい合う2つの辺では同じ向きの磁流が発生する。幅を大きくしてこの部分の放射を使うのがパッチアンテナである。
パッチアンテナは、パッチ面上空に向かって指向性を持つ。

<PIFA>
プレーナ型の逆Fアンテナ。
パッチアンテナと同じタイプの磁流アンテナだが、前出の線条逆Fアンテナと同じ考え方をもって電流電圧分布と給電点を調整している。
携帯電話に多く使われてきたアンテナだ。
接地部分の面積や開放端の形状によって L と C を形成し、共振させて長さを落とすことができる。
また、接地の位置を適切に設計すれば、パッチ平面上で電流の経路を周波数によって変えることが可能である。
この方法は広帯域アンテナとして使う場合に有効だ。






(参考1)
定在波がアンテナの絶対条件というわけではない。アンテナには、開放端/短絡端の反射による定在波を用いようとするもの(定在波アンテナ)ばかりではなく、アンテナの線路を伝送路として終端する進行波アンテナ(ロンビックなど)もある。ここでは定在波アンテナだけをとりあげた。



(参考2)
最近多くの産業で使われるようになって注目を集めているパッシブ型RFIDには、135kHz/13.56MHz を用いた磁束結合タイプと、900MHz/2.54GHz の電磁波タイプがある。電磁波タイプには上で見てきた線条/磁流アンテナが、磁束結合タイプにはループ「形状」のアンテナが使われている。ただし、磁束結合タイプのアンテナは、これまでに見てきた他のアンテナと違って電磁波を対象にしていない。大きさの似ているパッチアンテナや、形状の似ているループアンテナとは全く異なるものである。
アンテナ内蔵ワンチップRFIC、つまり同じチップ上にパターンとしてアンテナが形成されたRFICもある。


Back List














































Back List


磁場


電磁波だけでなく、センサや材料開発に、医療にも、ごく普通の電気回路にとっても、「磁場」という考え方はそれらを扱うための重要な道具のひとつである。しかし磁場は、一般の生活においては電場と同じ種類の親しみをもって現れるものではない。例えば電池の中の電場や電荷などは、良い理科教育のおかげで俺達にもなんとなく想像することができるのに対し、磁場を使った電池にお目にかかることは(そのむかし話題になった常温超伝導を除いて)ほとんどない。磁場はモータによって電車を時速何百キロにまで加速するが、電場に引かれる移動手段にはたぶんまだお世話になっていない。冬の静電気パチッ!は笑って済むが、IHヒーターやトランスのうなり声になぜか俺は心底ビビるのである。

フレミングの法則では、指の形に沿って電場と磁場は同じ絵の上に描かれた。電荷に働く力と磁荷の対に働く力も、いくつかの前置きはあったにせよ似たような式を似たような時期に学んだ。さらにマクスウエルの方程式では、電場と磁場は同じ構えでちょうど裏返しになっていて、(生まれは違っても)まるで双子のように並びあう作用の源として捉えられるようになっている。だが、このイメージは俺達をどれくらいの正しさで導いてくれているだろうか。実務ではむしろ、特に矢尽き刀折れ八方は塞がり思考が停止してしまったような場面では、その経緯をよく見なおしてみると俺はやっぱりこいつのことを見損なっていた、というようなことは実際に少なくないのである。人間がこれだけ電磁波を飼いならし使いこなしている現代においてもなお、「磁場」という考え方をここまで定言的に運用しなければならない(定言的にしか運用できない)のはなぜなのだろう...。つい先ごろ、電気磁気に関するイギリスの教材を見る機会があったのだが、日本の基礎教育はやはりここでも決定的な遅れを子どもたちに背負わせているのかと、自分のアホさが自分固有のものと言うよりはもう少し広い範囲に滞留していることにやはり俺は心底がっかりするのである。

(これまでどおり、電場/磁場はそれをおおまかに指すものとし、電界強度/H/D/磁束密度とは分けて使うことにする。)






【マクロな作用】

電気的な作用が外に見せる特徴のひとつはそのひ弱さである。現実的な物質同士で電荷が引き合う力を足し合わせると、その大きさは例えば電荷を分離/整列させるために使った同じ種類で同じ程度以下の力でしかない。これは電気的な中和である。

一方、磁気的な作用について俺達が実感するのはその力の暴力的な大きさだ。そもそも電荷の動きによるローレンツ短縮に源を持つはずの磁気的な作用は、一個の電荷が光速で動いたときにはじめて、一個の電荷に関するクーロン力と同じ程度の力を持つということがわかっている。しかし実際には、電荷の速度がカメほどの速さであっても、磁気的な作用は電気的なそれとは比べられないほどの大きな力を発揮するのである(注1,2)。これもやはり、中和ではないが電荷の動きの重ね合わせをあらわしていると言えそうだ。

注1)ここで言う速度は電荷の動きであり、情報の伝播、波頭速度、群速度というこれまでの電磁波の議論とは異なる。たとえば金属における自由電子の移動度であってもそれは 50cm^2/Vs 程度という非常にゆっくりとした速度である。
注2)磁気的な相互作用の源泉を磁荷とする議論はこの章にはない。よくわからないので。






【磁場の導入】

磁場は、ほぼ電流の周辺に定義されている(注3)。このことは、共に動いている2つの電荷分布同士に働く引力/斥力の起源をローレンツ短縮とクーロン力とし(注4)、これを表現するため今でも便宜的に「磁場」が用いられているのである、とか、その引力/斥力からローレンツ力(注5)が、ローレンツ力からさらにアンペール力や電磁誘導が導かれる、と説明されることもある。一方では同じ事を、電荷の作るスカラポテンシャルとナブラとの積が電界を決めるのに対し、もうひとつの力は電流の作るベクトルポテンシャルとナブラとの外積によって決まる、などとでっちあげられた記号で教わったかもしれない。しかしこれらは、片方は演繹的もう片方は帰納的でありすぎることへの不信感なのだろうか、はっきりとその輪郭を頭の中に描くことが俺にはいまだにできていないのだ。

それでも俺の感覚としては、磁場というものが実際使う必要のない単なる概念だなどとは到底思えない。ローレンツ短縮から100年を経て、現在まで磁場は使われ続けている。なによりもマクスウエルの方程式に磁場はなくてはならないものに見える。それに物性としての磁性をどう考えれば良いのか(注4)。いま、磁場のことを「便宜的」などと切り捨てることは誰にもできないに違いない。

注3)電子のスピン角運動量と磁場との関係は、今はこの中から除かなければならない。Bではあっても物質の中は難しくてよくわからない。
注4)アインシュタインの1905年論文の表題は「特殊相対性理論」ではなく「動いている物体の電気力学」だし、ローレンツの同じ研究はそれ以前のものである。
注5)ローレンツ力の「一様な磁場中を運動して」という想定からイメージすることは難しい。一様な磁場中をループ全体が平行移動するだけで起電力が発生するように見えてしまうからだ(発生しない)。定性的にはむしろ相手の電荷の動きを見通すローレンツ短縮/クーロン力がこれを助けるケースは少なくない。






【2つの法則】

18世紀の後半、磁石のふるまいは、電荷/電場の関係を見本に磁荷/磁場の関係としてその説明が組み立てられた。しかし19世紀に入ると、磁場は意外な(しかし重大な)任務を負うことになる。100年の間に起きたいくつかのできごとを並べてみよう。まずは19世紀初頭、磁場は2つの法則の源泉のひとつとして用いられていた。ひとつは1820年頃フランスのアンペール、ビオ、サバールなど、もうひとつは1830年頃イギリスのファラデーによるものだ。そして30年後、これらをマクスウエルが整理し、独自の解釈て電磁場を表す。それからローレンツ短縮まではさらに40年を待つ。
以下、マクスウエルの解釈の重要な基盤となった2つの法則を、ローレンツ力から見なおしてみる。


①アンペールの法則の基になる引力/斥力

まっすぐな電線が2本並行して、
地面と水平に南北に伸びており(東側の電線と西側の電線)、
共に電流が北へ向かって流れるとき(外部回路は無視してこの部分だけ)、
それぞれは引き合う。
このとき、「磁場」を、
・南北にまっすぐな電線であれば北に向かって右回りの方向を持った物理量
と定義し、これを力の源泉とする。
東側の電線は西側の電線が作るこの上から下への「磁場」によって、「動きの向き/磁場の向きを順に右回り(外積)に見て進む方向の新しい力」である「ローレンツ力」を受け、西側へ引かれる。これがアンペールの法則の基になる引力/斥力である。


②電磁誘導

水平な面上に閉じた回路があって、一様でない磁場を、その平面に垂直に与え、回路を動かすと、回路の各部分が感じるローレンツ力の一周分はゼロにならず、起電力が生じる。






【誘電体中の電界と磁性体中の磁束】

ーーー 誘電分極 ーーー
電気双極子(ミクロな分極)とは、正負の電荷が少し離れてペアになっている状態である。電界はペアの内側に強く存在し、外側には弱く広がっている(正負2つの放射状電界は重なって打ち消し合い小さくなる)。誘電分極とは、外部電界によって、バラバラだったたくさんのこの電気双極子の向きがそろう事、と言うことができる。このとき、それぞれの電気双極子の外側に弱く広がっていた電界は、さらに打ち消し合い0に近づく。すなわち、誘電分極では、電気双極子の内側にあった電界のみが残り、誘電体のほぼ内部にだけ電界が生じることになる。内部に新しくできたこの電界の向きは、外部電界の逆である。

誘電分極と電界との関係はおおむね以下のように説明されることが多い。
外部で接続されていない一対の近接して対向した大きな電極が、それぞれ反対で同じ数の電荷を持っていれば、それらの間には電極に垂直で一様な電極間電界ができている。電極間以外(外側)の電界は打ち消し合ってほとんど0になっている。この電極間に誘電体を入れると、誘電体の中でバラバラだった電気双極子は、電極間電界に引かれて向きをそろえ、誘電分極となる。すると誘電体内部には新しい電界ができているように見える。この新しい電界の向きは、電極間電界とは反対で、弱め合う向きである。したがって、誘電率が大きいほど内部合計電界は小さくなるのである。(注6)
このとき、電極上に残っているはずの電荷はどうなったのだろう。電極に近い誘電体表面には電荷がしみだしている。この電荷は、誘電分極の原因である電極上の電荷とペアリングしている(お互い最も近くで)、と見ることができる。そのペアは、ある遠くの場所(電極間内外にかかわらず)を観測点として見ると中和されているはずで、たとえばその観測点に電荷があってもそれに影響を与えることはできない。これは、外から見た(測定できる)電位差が小さくなっているということである。(注7)

ちなみに、電極の間に誘電体ではなく金属を挟んだ場合、金属は導体なので電気双極子がそろうわけではないが、内部で電荷がほとんど自由に別れることができるので、電極上の電荷とほぼ同じだけの数の電荷が表面に現れる。まるで無限に大きな誘電率を持っているかのように、内部合計電界も、外部回路で測定される電極間電位差も0に近づく。この場合は、電気双極子の回転ではなく、分離した電荷が引きあって元に戻ろうとする力を考えれば良いだろう。

注6)俺たちが日ごろ目にするのはこうではなく、外部回路から一定電圧が印加され常に電荷が出し入れされている状態がほとんどである。
注7)「電圧」に対する過度の信頼は、日常にも思わぬ失敗を誘うことがある。

ここで、
電荷 → D → (/ε) → 電界 → 作用
の観点からも、誘電分極と電界との関係を定義してみよう。
・誘電体が無い場合の電極上の電荷による仮想の場「D」を、電極同士の内側(注意)で考える
・Dと、誘電体によって減った電界とを結びつけるのが 1/ε
・外部に作用する(観測される)のは電界



ーーー 磁化 ーーー
磁化を磁気双極子と考えるならば、アナロジーとして磁界を電界のように扱うことも可能である。
しかしここではそうでなく、磁化を(EB対応を背景に)磁化電流と考える。円環状の電流は、その中を通る強い磁束と、外側を広がり一周して戻ってくるあまり強くない磁束とを作る。磁性体の内部には、ミクロな円環電流とそれによる磁束がばらばらの向きで存在していると考えることができる。これを外部磁束の中に入れてみよう。外部磁束は、長いソレノイドがその内側に作る一様に並行した磁束とする。マクロな磁化とは、この外部磁束を作ったソレノイドの電流と同じ向き(注意)に、磁性体中でバラバラだったたくさんのミクロな円環電流の向きがそろう事である。磁性体の中で向きのそろったミクロな円環電流は、それらを重ねあわせたマクロな磁化電流(磁性体の外側を一周する大きな周回電流)と考えても良いだろう。

マクロな磁化でも、磁化電流の内側の磁束と外側の磁束とは連続的で周回している。その向きを外部磁束と比較すると、磁性体内部では強め合い、磁性体外部では弱まり、さらにソレノイドの外側では強め合う向きである。このことは、磁界/磁気双極子を考えた場合と比べると、ソレノイド外側では同じですが、磁性体内部で異なる(磁性体内部の磁束というものがあるのであれば、だが)。磁性体の表面には磁束密度の不連続ができ、ある場所では磁束がすれ違うことになる。これには磁性体の形状によって大きな差がある。(例えばリング状の磁性体であれば磁性体の外側から帰ってくる磁束は無くなり、したがって磁性体外部には影響を及ぼさない。)

誘電分極とマクロな磁化とのこのような違いは、電界をスカラポテンシャルの傾き、磁束をベクトルポテンシャルの回転と見たりすることからも感じることがある。(もちろん円環電流と電気双極子は究極まで小さくすると同じような形状の場を生むのだが。) さらに、磁性体には、外部磁場に影響される可能性のある要素として、局在した電子スピンの相互作用、金属の中で縮退したもの、電子の軌道内の運動、核の運動など多くのものがあり、外からはそれらが複数重なって見えている。ただここでは、常磁性体や強磁性体の磁化の方向だけをとりあげた。

電界/誘電体のときと同じ様に、
円環電流 → 磁界 → (*μ) → 磁束 → 作用
の観点から、磁性体と磁束との関係を定義してみる。
・磁性体が無い場合のソレノイドの円環電流による仮想の場「磁界」を、ソレノイドの外側(注意)で考える
・磁界と、磁性体によって増えた磁束とを結びつけるのが *μ
・外部に作用する(観測される)のは磁束


Back List