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平面と座標


数学なんかバカヤロウ、図形とか式とか切ったり貼ったり、先公が好き勝手にくだらないゲームの点数付けてるだけじゃねえか。偉そうにグダグダ言いやがって何様なんだよ。何に使ってどう役立つのかわかるように最初から説明してみろよ。..中学生のころそうやって放課後の妄想と居眠りで授業をやりすごしてきたアホボンたちの、俺はその一人である。おかげで期末テストはもうもほとんど闇のなか、それでもやっと何かが消えたり分かれたりしてくれると、赤点スレスレの答案にちょっとホッとしていたものだ。だがそうやって大人になり現場に出てみれば、同じような形に見える式でも全く違う何かを表している場合に遭遇し、やはりとまどう。何年も前に思考停止したその理由にやっと気がつくのである。それは例えば式の変数に付けられている制限だ。この変数は変えて良いのか、それとも結果なのか、どちらでもなく関係を示しているだけなのか、あるいは何かの図形を表したいのか、という疑問である。さらに重要なのは、この式が何のために存在しているのか、その目的と背景である。学生時代は問題文や試験範囲や科目名が暗黙のうちに教えてくれていたこれらのことだが、いま目の前にある式には条件も但し書きもなにも付いていない。例えば経済の入門書が言うところの需要供給曲線は、縦軸(価格)が独立変数で横軸(供給)が従属変数とされる事があるが、題目が違うと反対のこともあるしそもそも定義されていない場合がほとんどだ。そんな数式やグラフだけを見ていると、なぜこの人はこんなに不思議なことを言っているのだろうと、俺にはサッパリ理解できないのだ。俺にはこの暗黙の背景を想像する力が全く備わっていなかったのである。

これから、2次元の平面で表わされる2つの数について考えてみようと思う。ポイントのひとつは上にも書いたとおり、解決しようとする課題は何なのかである。もうひとつは、直交座標と極座標、どちらを使ったほうが賢いかである。(*1)



[ 解決しようとする課題は何か ]

<x または y の値>
まず、x が独立変数、y=f(x) がその従属変数と決められた場合を考える。そこでは、y の値が x の値に対してどうなるか、そのふるまいが平面の上に描かれている。その目的は従属変数 y の値であって、作用の向きや条件と時間との連携によって片方向にのみ成立する表現だ。実験結果のグラフにはこれがけっこう多くなる。
一方、独立変数と従属変数が決められていない場合は簡単で、数学の学習によく使われている。 y=f(x) でも x=g(y) でも、どちらか一方が決まれば他方が決まる、すなわち目的は、 x と y どちらか決まってはいない片方の値である。これらはただ平面の上の絵として x と y との関係を表しており、数式は単独で機能する。

<2変数 x,y の関数 w=h(x,y) >
上の例で独立変数と従属変数が決められていない場合、それは x と y との関係を表していた。ここでは、その目的が x または y の値を得ることにとどまらない、さらに先に本来の目的がある場合を分離してとりあげる。それは、x と y が、共に新しい従属変数 w を得るための独立変数となる場合だ。
・・変数が2つ
2つの変数 x と y があるというだけでは、2次元平面の上に絵が見えるわけではない。何の制約も無く全ての (x,y) の組をもしポイントするならそれはただの平面である。ただここで (x,y) の関係になんらかの制約を与えるならその制約が点や線として見えてくることにはなるが、この (x,y) はあくまで次の展開を待つ変数の組であることに注意しなければならない。
・・その関数
それは x と y を共に変数(変数が2つ)としたときのの関数 w=h(x,y) である。
まず、関数が返すのがひとつの量であれば、頭の中でも(最近では色付きの3Dグラフィクスで)これを想像することができる。地図上の各ポイントに対する温度もひとつの例である。これはここでとりあげるものではない。
では、関数 h(x,y) がさらに (u,v) の組を返すという場合はどうだろうか。
・天気図各地点 (x,y) の風向きと強さ (u,v)
・月から地球を撮影した写真の縦横 (x,y) と地球上で測定した距離 (u,v) との関係
などが考えられる。
前者、点 (x,y) におけるベクトル (u,v) はイメージしやすいし、混乱する要素はあまりない。
そして後者の場合だが、関数 h 自体が (x,y) 平面の上に絵を持っているわけではない。白紙の平面が関数によって伸び縮みした別の平面になる、あるいは二つの平面の間で、無数の糸が点と点とをつないでいるといったイメージでとらえればよいだろう。ただ、これは、ある平面上に絵があればそれを異なる平面に描きなおす、という操作でもある。すなわちもし (x,y) の組合せを限定してそれを平面上に線として描いてみるならば、その線は、関数 h(x,y) によって平面 (u,v) の上に形状の異なる新しい線となって写し出される。この線については文脈をあまり軽視してはならない。



[ 直交座標か極座標か ]

座標は手段だ。方法や形式が違っていても表現する空間が違うというわけではない。「極座標上」「直交座標上」という表現に違和感を覚えるのは蓋し普通であると思う。「2時の方向100m」と極座標を用いても(極座表表示)、「東へ141m北へ50m」と直交座標を用いても(直交座表表示)、いずれも2つの量(r/Θ のペアまたは y/x のペア)を用いて同じ平面の上の同じ点を指すからである。したがって「**座標上」というなにか違う空間であるかのような区別は本当はあまりよろしくないのかもしれない。

一方だけが変化するときの特性はこんな感じだ。
【直交座標】
x だけが変化したときの軌跡は x 軸と平行な直線
y だけが変化したときの軌跡は y 軸と平行な直線
【極座標】
Θ だけが変化したときの軌跡はぐるぐる回る線の先端(円)
r だけが変化したときの軌跡は原点から出る直線

一点を示すのにその補助をしてくれる図形は、
【直交座標】
x 軸上の長さ x と y 軸上の長さ y とで作った長方形や十文字
【極座標】
原点からこの点までを結んだ直線(水平から角度 Θ 長さ r の直線)

少し逸れるが、ここで、y, x, r, Θの4つの変数の他の組み合わせも考えてみる。これらも座標と言って良いのだろうか。
r/x ?
y/Θ ?
いささか問題があるようだ。r/x や y/Θ は平面上の点と1対1にうまく対応せず、したがって思いどおりの点に到達することができないか、または逆に点からの帰り道がなかったり分かれ道になっていたりという不都合がありそうだ。

では、直交座標と極座標とを比べてみよう。直交座標と極座標とは、どちらを用いても描かれるのは同じ空間上の同じ絵であり、これらは同じものを表現する異なる式を作るだけだ。点を指す能力に大きな優劣はない。どちらも状況に応じてその特徴を引き出すことができるだろう。ただ、俺達が知っている数式の多くはそもそも直交座標を想定して作られており、したがって極座標との親和性はあまりない。
たとえば、直交座標で
y=x
としてこれを観察することには馴染みがある。
一方、極座標であえてこれを
r=Θ
とあらわしてみると、ただ目が回りそうな曲線は何かを教えてくれるような気は全然しない。
関係が三角関数であっても、たとえば直交座標の
y=sinx
にはフリーハンドでもかなり正確に書けるほどの親しみがある。x を時間にした絵も見慣れたものだ。
一方、極座標の
r=sinΘ
は、ただ円が軸の上に載っただけで意味がよくわからない。何かに使えるのか?

しかし、実際にはこのような混乱はまず起こらない。安心して良いのは、r=Θ や r=sinΘ 、つまり極座標でなにか変数の関係を表してやろうという試みを、普段は殆ど見かけることがないということだ。現場で目にする「極座標」という言葉や絵は、これから2変数を極座標 (r,Θ) で表す、この2変数を用いた関数の計算をしよう、と、多くがそういう意図で使われるからである。



ここまでは、「f特」とは一見関係のないテーマを取り上げた。その理由は、線の描かれた2次元平面を見るとき、これが1変数の関数のふるまいなのか、(x,y) の組でなにかの性質を表そうとしているのか、あるいは2変数 (x,y) をもった別の変数 w をこれから議論したいのか、または2変数 (u,v) を返す関数があってその元になる (x,y) の組になんらかの制限を与えてみただけなのか、一度自分の言葉で試してみる必要があると思うからだ。
たとえばあなたは、複素平面の上で、
・cosΘ+jsinΘ や exp(jΘ) を用いようとするときに描かれる円(*2)
・r=1 として描かれる円
・x^2+(jy)^2=1 として描かれる円
これらの意識の差を、はじめての人達にどうやって説明するだろうか。







*1)
ここで言う座標とは、各種用途に特化された一般化座標系を指してはいない。

*2)
cosΘ+jsinΘ = exp(jΘ) であることは、ここでの話題とはまったく別の、ただの事実である。
18世紀に戻り、これらの展開を復習しておくと良い。


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複素数とツール


実際に、「複素平面」なる呼び方や考え方がある。前節「2つの変数によって1点をポイントする平面」のひとつである。それは (x,y)@直交座標 の x を複素数の実数部、y を複素数の虚数部としたものだ。「複素数、複素平面、ベクトル」、これらはよくまとめて耳にする単語のグループだが、ここではまず、
・複素数 x+jy あるいは exp(jΘ) は、あくまでもひとつの数である。
・「複素平面」とは、その複素数を仮に平面上の点やベクトルとして見てみる、その平面のこと。
・「複素平面」上の点やベクトルは、複素数の演算によってまた別の点やベクトルに写る。
ということを確認したい。「複素平面」上の点やベクトルは複素数ではない。単に複素数の計算における挙動を表現しただけのものだ。

ではなぜ、ひとつの数である複素数の実数部 x と虚数部 y を「複素平面」上の座標の2要素とすることが良しとされているのだろうか。実際に、生活から離れてメタ学問のように見える事がよしとされる分野では「複素平面」が活躍しているようにも聞く。ただ我々にとっては、この置換えによって、複素数の乗算が、元のベクトルから結果のベクトルへの「増幅+回転」というイメージを持つようになるというただ一点がその理由である。これは、虚数単位は2乗すると実数単位に写る、という複素数の性質によるものだ(下記)。俺は、「複素平面」の概念がこの仕事で役に立つことは一点、後述の "作用素" だけだと思っている。「増幅+回転」というイメージが先行しあらゆる場面で浮かんできてしまうというのはこれまたよろしくないのだ。(*1)

------- 複素数の乗算 -------
二つの複素数、
x+jy
u+jv
をかけ合わせると、

(xu-yv)+j(uy+xv)


絶対値 A:A = SQR((x^2+y^2)(u^2+v^2))
偏角 φ:cosφ = (xu-yv)/A
であり、これだけでは「ふーん」なのだが、
x = rcosα, y = rsinα
u = qcosβ, v = qsinβ
とおけば、
(全ての複素数を1対1で表すのでこの書き換え自体は自由。)
(極形式:と言ってもまだ「平面上のベクトル」ではなく数のまま。)
絶対値 A:A = rq
偏角 φ:cosφ = rq(cosαcosβ-sinαsinβ)/rq = cos(α+β)
となり、振幅は三角関数が元々持っていたもののかけ算に、角度は足し算になっていることがわかる。

そうかそれならば..ということである。実数/虚数各々の成分をそのまま「複素平面上のベクトル」の要素とすれば、乗算によって、
(x,y) = (rcosα,rsinα)
にもともとあった点が、
(u,v) = (qcosβ,qsinβ)
の q をベクトル長さの倍率とし、β を回転角とした行き先の点、

(rqcos(α+β),jrqsin(α+β))

へと移動したように見えるのである。

最初の乗算に戻って j に関わる部分を見直してみると、「複素平面」の特徴とは、複素数に j を乗じるという動作が平面上の動きで表されること、と言えるだろう。
1*j=j (90度半時計回り)
j*j=-1 (さらに90度半時計回り)
1*-j=-j (90度時計回り)
-j*-j=-1 (さらに90度時計回り)
--------------------------------





さて、俺達にとっての課題はここからで、複素数と正弦波との関係だ。まず、exp(jΘ)=cosΘ+jsinΘ なる複素数(この等式は単なる事実(*2)であってこれからの議論とは全く関係がない)は、あくまでひとつの数である。「正弦波は複素数で表せるので」などというふさけた話でも決してない。ただ、正弦波に関わる特定の計算を簡単に行うために複素数は使われるのである。(上に書いた「複素平面」もそのイメージとして付いてきてしまうので注意する。) では、正弦波は、どういう理由でどのようにして複素数に置換えられるのだろうか(課題-1/2)。それは、ある場合に限って、例えば元に戻すことを前提に、例えば限定された値だけを参照することを前提に、計算時だけに「置換え」が許されるということだ。結果をそのまま評価に用いてはいけないし、乗算のように計算自体が許されないケースも多い。(*3)

・乗算 AcosΘ*Bcosφ = AB(cos(Θ+φ)+cos(Θ-φ))/2
・置換え:→ Aexp(jΘ)*Bexp(jφ) = ABexp(j(Θ+φ)) = ABcos(Θ+φ)+jABsin(Θ+φ)
・実数部:ABcos(Θ+φ) (ぜんぜん違う)


逆に一致する例をいくつか確かめてみる。

・加算 AcosΘ+Bcosφ
・置換え:→ Aexp(jΘ)+Bexp(jφ) = AcosΘ+jAsinΘ+Bcosφ+jBsinφ = AcosΘ++Bcosφ+j(AsinΘ+Bsinφ)
・実数部:AcosΘ+Bcosφ (一致する)

加算は実数部と虚数部が別々に処理されるので何もしていないのと同じなのである。

Θとφを、ωtからの「同一周期/位相違い:ωt±δ」と書き換えてももちろん一致する(ここから波に入ってゆく)。ーーーーーー

・加算 Acos(ωt+α)+Bcos(ωt+β)
・置換え:→ Aexp(j(ωt+α))+Bexp(j(ωt+β)) = exp(jωt)(Aexp(α)+Bexp(β)) = (cos(ωt)+jsin(ωt))((Acosα+Bcosβ)+j(Asinα+Bsinβ))
      = (Acosα+Bcosβ)cos(ωt)-(Asinα+Bsinβ)sin(ωt)+j((Asinα+Bsinβ)cos(ωt)+(Acosα+Bcosβ)sin(ωt))
・実数部:(Acosα+Bcosβ)cos(ωt)-(Asinα+Bsinβ)sin(ωt) = Acos(ωt+α)+Bcos(ωt+β) (一致する)


・Θをωt+δとしtを変数とした微分 dAcos(ωt+δ)/dt = -ωAsin(ωt+δ)
・置換え:→ dAexp(j(ωt+δ))/dt = jωAexp(j(ωt+δ)) = jωA(cos(ωt+δ)+jsin(ωt+δ)) = -ωAsin(ωt+δ)+jωAcos(ωt+δ))
・実数部:-ωAsin(ωt+δ) (一致する)






だが正直な話、加算や微分でのみcosΘをexp(jΘ)に置換え可能とか言われても(しかも結果はそのまま使えない)、あまりうれしくはない。
ならばこのような置換えは一体何に(何の説明に)使われているのか、というのが次の課題(-2/2)だ。というか本題だ。
それは前出、同一周期の波(ある点で)の加算からすでに滲み出していたはずだ。その元の式

Acos(ωt+α)+Bcos(ωt+β)

では、2つの数Θとφを、1つの変数tを使って「一定の間隔を保って同じ様に変化する波」と勝手に決めた。
Θとφを1つの変数tとその他の定数とに分けることができる特別な状況を仮定して、tで変化する波についてまず考えたのである。
するとこの波は、同じ周期の単一正弦波に括られる(位相の異なる同一周期の正弦波は加算しても同じ周期の正弦波になる)。

Acos(ωt+α)+Bcos(ωt+β)
= A(cos(ωt)cos(α)-sin(ωt)sin(α))+B(cos(ωt)cos(β)-sin(ωt)sin(β))
= (Acos(α)+Bcos(β))cos(ωt)-(Asin(α)+Bsin(β))sin(ωt)
= Ccos(ωt+γ) とできる。
  ・cos(ωt)に対する振幅倍率:C = CSQR((Acos(α)+Bcos(β))^2+(Asin(α)+Bsin(β))^2) = CSQR(A^2+B^2+2ABcos(α-β))
  ・cos(ωt)に対する進角:cos(γ) = (Acos(α)+Bcos(β))/C


一方、cos(τ)を複素数exp(jτ)に置換えた加算も、途中から似たような形になってくる。cos(ωt)の係数はexp(jωt)の係数の実数部と同じで、sin(ωt)の係数はexp(jωt)の係数の虚数部と同じ。これは、加法定理ではωtの余弦の係数は位相の余弦同士の加算であり、複素数の実数部も位相の余弦同士の加算だからだ(正弦の項と虚数の項についても同様)。すなわち、exp(jωt)を乗じたり実数や虚数を取り出したりしない複素数のままで、少しだけ表現の異なる同じ値を示していることになる。

Aexp(j(ωt+α))+Bexp(j(ωt+β))
= exp(jωt)(Aexp(jα)+Bexp(jβ))
= exp(jωt)(Acos(α)+Bcos(β)+j(Asin(α)+Bsin(β)))
= exp(jωt)Cexp(jγ) とできる。
  ・exp(jωt)に乗ずる複素数の絶対値:CSQR((Acos(α)+Bcos(β))^2+(Asin(α)+Bsin(β))^2) = CSQR(A^2+B^2+2ABcos(α-β))
  ・exp(jωt)に乗ずる複素数の偏角:cos(γ) = (Acos(α)+Bcos(β))/C

すなわち、exp(jωt)の係数である複素数の「絶対値と偏角」は、実体であるcos(ωt)から変化する「振幅倍率と進角」そのものである。「振幅倍率と進角」しか議論しないのであれば、exp(jωt)の係数である複素数は複素数のままで良いということだ。exp(jωt)を乗じたままで実数部をとれば実体(瞬時値)に戻る一方で、exp(jωt)を除いた複素数は、実体から独立し作用素として自由になる。例えば電圧方程式の両辺をexp(jωt)で割った値、インピーダンスがその例だ(というかそれとその親戚 Z,Y,F,G,S,.., 以外の使いみちを俺は知らない)。自由になったこの複素数は加減乗除が可能だし、exp(jωt)を乗じて実数部や虚数部から実体に戻す必要もなく(可能ではある)、何と言っても「実体に対する作用」というちゃんとした意味を持つのである。
(*4)





さて、俺なんかはこのあたりでうれしくなって俄然この自由な作用素を使いたくなってくる。これまで雲の中に手を突っ込んだまま使っていたキャパシタやインダクタのインピーダンスが目に見えてきたからだ。しかし、その元となった「正弦波を複素数に置換えて計算する」場合の条件も忘れてはならない。ここでもう一度だけおさらいしておく。それは、元のすべての項、結果、共に同じ周期の定常的な波であって、正弦波同士の乗算が含まれていない、ということだった。
いくつかの回路の教科書によく出てくる表現でこれを言い換えると以下のとおりとなる。
・回路が線形である(原文ママ)
・起電力が正弦波である(原文ママ)
・交流回路の定常解を求める(原文ママ) この条件のもとで作用素(波そのものではなく)を使え、ということである。
またそこでは、インピーダンスなど作用素を分離するという方法論自体は、
・Vector算法が必要な理由(原文ママ)
・記号演算の適用(原文ママ)
などというお題で書かれている。意外にも定まった呼び名はないようだ。そうと決めれば要らなくなるからだ(せっかくここまで整理してきたのだけれど)。
かと思えば、「フーリエ変換」だと一刀両断に捨てる本もある(→フーリエ変換の回路での利用)。俺は賛成しない。というかそのあたりの出し入れがよくわからない。

最後に、インピーダンス Z やゲイン G などの作用素は「f特」となって現れる。
それは(繰り返すが)時間tの関数である波の微分方程式などではく、作用素だけの代数式(ωの関数)を解いた結果だからである。









*1)
複素数の実数部と虚数部を直交座標におけるベクトルの各成分に対応させるイメージがいくら具合が良いとしても、たとえばこのベクトルの余弦が虚数であるというわけでは全然ない。座標やベクトルとは無関係に、複素数と三角関数との関係はオイラーの式(*2)という事実に頼らなければならない。


*2)
指数関数と三角関数のそれぞれべき級数への展開を比較することによって、
exp(jα) = cosα+jsinα
であることが導かれている。
よって、このかけ算はやはり以下のように表される。加法定理からではない。
rexp(jα)qexp(jβ) = rqexp(j(α+β)) = rqcos(α+β)+jrqsin(α+β)


*3)
例えば光学の教科書ではこのように書かれていたりする(原文ママ)。 「cosτの代りにeiτを用いる場合の注意」
「光波の積を求める際には必ずcosine函数に戻したものを用いなければならない」
複素数は波に使うな、ということである。(作用素に使うのだ。)
俺は作業中に、例えば直行検波やミキサのような乗算においてもうっかり頭の中で cos(ωt) を複素数 exp(jωt) に置換えてしまっていることがある。


*4)
この作用素についてだが、俺は2つの複素数で混乱することがある(どうせアホなので恥ずかしくない)。
まず1つ目の複素数、ここまでの計算でもキモになった。
・exp(α+jβ) = expαexpjβ
これをこのまま、
α:振幅の動き(減衰定数)
β:位相の動き(位相定数)
(α+jβ:伝搬定数)
と見れば本当にそれで良いのか、この複素数の絶対値と偏角に意味は無いのか。
exp(α+jβ) = expαexpjβ = expα(cosβ+jsinβ)
... 絶対値A: √exp2α√(cos^2β+jsin^2β) = expα
... 偏角θ:cosθ = expαcosβ/A = cosβ:θ = β
お、同じかよ..あたりまえか。俺はここまで「複素数は数であってベクトルではない」みたいなことを書いてきた。そのしっぺ返しがこんなところに出てきたのだ。一人が辿ってきた道はたった一本に過ぎないことを忘れ先人の教えをないがしろにするなど、ひとりよがりにもほどがある。

もうひとつ、インピーダンスなど作用素の測定によって出力される複素数はこちらだ。
・a+jb(または絶対値 A と偏角 θ)
これは expのべき指数ではない。このままで作用素である。なので実数部 a や虚数部 b に意味は付かない。絶対値と偏角に意味がある。
a+jb = √(a^2+b^2)expjδ ... cosδ = a/√(a^2+b^2)

すなわち2つの複素数、
・exp(α+jβ)
・a+jb
はだいたいいつも同じく作用素を表す。しかしそれぞれで使われる値 a+jb と α+jβ とは全く別のものだ。文字が似ていることは間違いのもとなのだが、あくまで古代ローマの支配が現在の本体なのであって、一方はそれ以前にギリシアで立ったイデアをもって実在する意味を取り出し表現しているのである。


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(付録)加法定理


三角関数の加法定理は、ただ線を引くことによって確認することができる。
sin(a+b) = sinacosb+cosasinb
cos(a+b) = cosacosb-sinasinb
このとおり幸運にも最初から目に見える見通しがあるわけで、これを眺めながら直角三角形を二つ、頂点(角 a と角 a+b の)を重ねて描くことによってこれは導かれる。決してオイラーの示した関係が加法定理のヒントや原典だったわけではないのだが、その早合点は、e と π と i を学んだ生徒たちが意外と落ちる小さな穴である。
ただ、もしも、
exp(jΘ) = cosΘ+jsinΘ
をすでに消化しているのであれば、こちらからも同じものが導き出される。複素平面からではなく式そのものからである。
指数の加算は指数関数の掛け算である。
exp(a+b) = exp(a)exp(b)
同様に exp(jΘ) も、Θを a+b とすれば、
exp(j(a+b))
exp(ja)exp(jb)
と二通りに書ける。それぞれにオイラーが示した関係を適用すると以下のようになる。
cos(a+b)+jsin(a+b)
(cosa+jsina)(cosb+jsinb) = (cosacosb-sinasinb)+(sinacosb+cosasinb)
ここで実数部同士、虚数部同士を比較したものが三角関数の加法定理と一致する。
俺達はすでに、自然科学では複素数 exp(jΘ) を2次元平面に乗せるのが賢いと了解している。したがってこのことに特別な思いはないかもしれない。しかし偶然なのかどちらも同じくらい明快であることに対しては、なにか引っかかるものがあって当然だろう。



もうひとつ、これも幾何的に簡単な説明がなされる関係であるにもかかわらず、その形から複素平面とか直交座標/極座標を思わず連想してしまうのが、三角関数の合成である。
asinΘ+bcosΘ = SQR(a^2+b^2)sin(Θ+α)
...cosα = a/(SQR(a^2+b^2)、sinα = b/(SQR(a^2+b^2)
こちらも、加法定理と asinΘ+bcosΘ とを比較することによって導かれる。



さて最後に、この加法定理が具体的に使われている例を、無線通信の変調/復調技術からピックアップしてみよう。

<同一周期の掛け算>
QAMを受信する直交振幅復調(直交検波)では、基準となる正弦波との掛け合わせによって、倍の周波数でオフセットした正弦波がまず作られる。このことは加法定理によって導かれる。
csin(ωt+α)sinωt = (c/2)(cosα-cos(2ωt+α)) (cos側は省略)
これを更に積分すると、位相差と振幅の情報を持った量が抽出できる。
(c/2)cosα

<同一周期の加算>
直交振幅変調(QAM)では、直交する二つの正弦波の加算によって位相と振幅がコントロールされる。このことは三角関数の合成、または加法定理から導かれる(前出)。
asinΘ+bcosΘ = SQR(a^2+b^2) sin(Θ+α)

<異なる周期の掛け算>
混合器(ミキサ)では、二つの異なる周期の正弦波を掛け合わせることによって、差または和の周波数の正弦波を新しく作り出す。この方法が作る正弦波は加法定理によって以下のように示される。この後フィルタによって周波数変換されたどちらかを取り出す。ヘテロダインという用語でも知られる。
asinω1t*bsinω2t = (ab/2)cos(ω1-ω2)t - (ab/2)cos(ω1+ω2)t
振幅変調(AM)も同様に、搬送波に信号(+1)を掛け合わせている。この方法も部分的には混合器であって、側波帯が新しく出てくることが加法定理によって以下のように示される。こちらは搬送波も残る。(添字cはキャリア、sはシグナルを表す。)
(Vc+Vssinωst)sinωct = Vcsinωct + (Vs/2)cos(ωs-ωc)t - (Vs/2)cos(ωs+ωc)t

<異なる周期の加算>
現象の解析や、うなりの生成、机上で周期的な波形を整形しようというときに用いられるが、実際に見ることはあまりないかもしれない。この一部は上記<異なる周期の掛け算>の裏返しになる。


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