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平面と座標


数学なんか図形とか式とか切って貼って点数付けてるだけじゃねえか偉そうにグダグダ言いやがって何様なんだよ。中学生のころそうやって別の妄想と居眠りで授業をやりすごしてきたバカ者たちの、俺はその一人である。それでも試験ではほとんど闇と雲のなかやっと何かが消えたり分かれたりしてくれると、赤点スレスレの答案にちょっとホッとしていたのは可愛らしいところだ。さてしかし大人になって現場に出てみると、同じような形に見える式でも全く違う何かを表している場合があるということに気がつく。それは例えば式の変数に付けられている制限だ。この変数は変えて良いのか、それとも結果なのか、どちらでもなく関係を示しているだけなのか、あるいは何かの図形を表したいのか、という疑問である。さらに重要なのは、この式が何のために存在しているのか、その目的と背景である。学生時代は問題文や試験範囲や科目名が暗黙のうちに教えてくれていたこれらのことだが、いま目の前にある式には条件も但し書きもなにも付いていない。例えば経済の入門書が言うところの需要供給曲線は縦軸(価格)が独立変数で横軸(供給)が従属変数とされているが、題目が違うと反対のこともあるしそもそも定義されていない場合がほとんどだ。そんな数式やグラフだけを見ていると、なぜこの人はこんなに不思議なことを言っているのだろうと、俺にはサッパリ理解できないのだ。俺にはこの暗黙の背景を想像する力が全く備わっていなかったのである。

これから、2次元の平面で表わされる2つの数について考えてみようと思う。ポイントのひとつは上にも書いたとおり、解決しようとする課題は何なのかである。もうひとつは、直交座標表示と極座標表示、どちらを使ったほうが賢いかである。(*1)



[ 解決しようとする課題は何か ]

<x または y の値>
まず、x が独立変数、y=f(x) がその従属変数と決められた場合を考える。そこでは、y の値が x の値に対してどうなるか、そのふるまいが平面の上に描かれている。その目的は従属変数 y の値であって、作用の向きや条件と時間との連携によって片方向にのみ成立する表現だ。実験結果のグラフにはこれがけっこう多くなる。
一方、独立変数と従属変数が決められていない場合は簡単で、数学の学習によく使われている。 y=f(x) でも x=g(y) でも、どちらか一方が決まれば他方が決まる、すなわち目的は、 x と y どちらか決まってはいない片方の値である。これらはただ平面の上の絵として x と y との関係を表しており、数式は単独で機能する。

<2変数 x,y の関数 w=h(x,y) >
上の例で独立変数と従属変数が決められていない場合、それは x と y との関係を表していた。ここでは、その目的が x または y の値を得ることにとどまらない、さらに先に本来の目的がある場合を分離してとりあげる。それは、x と y が、共に新しい従属変数 w を得るための独立変数となる場合だ。
・・変数が2つ
2つの変数 x と y があるというだけでは、2次元平面の上に絵が見えるわけではない。何の制約も無く全ての (x,y) の組をもしポイントするならそれはただの平面である。ただここで (x,y) の関係になんらかの制約を与えるならその制約が点や線として見えてくることにはなるが、この (x,y) はあくまで次の展開を待つ変数の組であることに注意しなければならない。
・・その関数
それは x と y を共に変数(変数が2つ)としたときのの関数 w=h(x,y) である。
まず、関数が返すのがひとつの量であれば、頭の中でも(最近では色付きの3Dグラフィクスで)これを想像することができる。地図上の各ポイントに対する温度もひとつの例である。これはここでとりあげるものではない。
では、関数 h(x,y) がさらに (u,v) の組を返すという場合はどうだろうか。
・天気図各地点 (x,y) の風向きと強さ (u,v)
・月から地球を撮影した写真の縦横 (x,y) と地球上で測定した距離 (u,v) との関係
などが考えられる。
前者、点 (x,y) におけるベクトル (u,v) はイメージしやすいし、混乱する要素はあまりない。
そして後者の場合だが、関数 h 自体が (x,y) 平面の上に絵を持っているわけではない。白紙の平面が関数によって伸び縮みした別の平面になる、あるいは二つの平面の間で、無数の糸が点と点とをつないでいるといったイメージでとらえればよいだろう。ただ、これは、ある平面上に絵があればそれを異なる平面に描きなおす、という操作でもある。すなわちもし (x,y) の組合せを限定してそれを平面上に線として描いてみるならば、その線は、関数 h(x,y) によって平面 (u,v) の上に形状の異なる新しい線となって写し出される。この線については文脈をあまり軽視してはならない。



[ 直交座標表示か極座標表示か ]

座標は手段である。方法や形式が違っていても表現する空間が違うというわけではない。「極座標上」「直交座標上」という表現に違和感を覚えるのは蓋し普通であると思う。「2時の方向100m」と極座標を用いても(極座表表示)、「東へ141m北へ50m」と直交座標を用いても(直交座表表示)、いずれも2つの量(r/Θ のペアまたは y/x のペア)を用いて同じ平面の上の同じ点を指すからである。したがって「**座標上」というなにか違う空間であるかのような区別はあまりよろしくない。

一方だけが変化するときの特性はこんな感じだ。
【直交座標表示】
x だけが変化したときの軌跡は x 軸と平行な直線
y だけが変化したときの軌跡は y 軸と平行な直線
【極座標表示】
Θ だけが変化したときの軌跡はぐるぐる回る線の先端(円)
r だけが変化したときの軌跡は原点から出る直線

一点を示すのにその補助をしてくれる図形は、
【直交座標表示】
x 軸上の長さ x と y 軸上の長さ y とで作った長方形や十文字
【極座標表示】
原点からこの点までを結んだ直線(水平から角度 Θ 長さ r の直線)

少し逸れるが、ここで、y, x, r, Θの4つの変数の他の組み合わせも考えてみる。これらも座標と言って良いのだろうか。
r/x ?
y/Θ ?
いささか問題があるようだ。r/x や y/Θ は平面上の点と1対1にうまく対応せず、したがって思いどおりの点に到達することができないか、または逆に点からの帰り道がなかったり分かれ道になっていたりという不都合がありそうだ。

では、直交座標表示と極座標表示とを比べてみよう。直交座標表示と極座標表示とは、どちらを用いても描かれるのは同じ空間上の同じ絵であり、これらは同じものを表現する異なる式を作るだけだ。点を指す能力に大きな優劣はない。どちらも状況に応じてその特徴を引き出すことができるだろう。ただ、俺達が知っている数式の多くはそもそも直交座標を想定して作られており、したがって極座標表示との親和性はあまりない。
たとえば、直交座標表示で
y=x
としてこれを観察することには馴染みがある。
一方、極座標表示であえてこれを
r=Θ
とあらわしてみると、ただ目が回りそうな曲線は何かを教えてくれるような気は全然しない。
関係が三角関数であっても、たとえば直交座標表示の
y=sinx
にはフリーハンドでもかなり正確に書けるほどの親しみがある。x を時間にした絵も見慣れたものだ。
一方、極座標表示の
r=sinΘ
は、ただ円が軸の上に載っただけで意味がよくわからない。何かに使えるのか?

しかし、実際にはこのような混乱はまず起こらない。安心して良いのは、r=Θ や r=sinΘ 、つまり極座標表示でなにか変数の関係を表してやろうという試みを、普段は殆ど見かけることがないということだ。現場で目にする「極座標表示」という言葉や絵は、これから2変数を極座標表示 (r,Θ) で表す、この2変数を用いた関数の計算をしよう、と、多くがそういう意図で使われるからである。



ここまでは、「f特」とは一見何の関係もないテーマを取り上げた。その理由は、線の描かれた2次元平面を見るとき、これが1変数の関数のふるまいなのか、(x,y) の組でなにかの性質を表そうとしているのか、あるいは2変数 (x,y) をもった別の変数 w をこれから議論したいのか、または2変数 (u,v) を返す関数があってその元になる (x,y) の組になんらかの制限を与えてみただけなのか、一度自分の言葉で試してみる必要があると思うからだ。
たとえばあなたは、複素平面の上で、
・cosΘ+jsinΘ や exp(jΘ) を用いようとするときに描かれる円(*2)
・r=1 として描かれる円
・x2+(jy)2=1 として描かれる円
これらの意識の差を、はじめての人達にどうやって説明するだろうか。







*1)
ここで言う座標とは、各種用途に特化された一般化座標系を指してはいない。

*2)
cosΘ+jsinΘ = exp(jΘ) であることは、ここでの話題とはまったく別の、ただの事実である。
展開して復習しておくと良い。


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複素数とツール


複素平面も、前節「2変数によって1点をポイントする平面」のひとつである。それは (x,y)@直交座標 の x を複素数の実数部、y を複素数の虚数部としたものだ。「複素数、複素平面、ベクトル」、これらはよくまとめて耳にする単語のグループだが、その単語が使われている理由を場面ごとに諒解しておくことが必要だ。
・複素数 x+jy はあくまでひとつの数である。
・複素平面とは、その複素数を仮に平面上の点やベクトルとして見るときのその平面のこと。
・その点やベクトルは、演算によってまた別の点やベクトルに写るという性質のもの。

ではなぜ、ひとつの数である複素数の実数部 x と虚数部 y をむりやり直交座標の2要素として見てみる、すなわちベクトル (x,y)@直交座標 として見てみることが良しとされているのだろう。それは、このことによって複素数の計算がその図の上である簡単な動きに対応するからだ。このことを、「もしベクトルとして見るならば」という仮定をもって(反対の方向から)確かめてみる。

直交座標表示のベクトル (x,y)@直交座標 は極座標表示ではベクトル (r,α)@極座標 と書けるが、その成分 r と α をそのまま使って、(rcosα,rsinα)@直交座標 と書くこともできる(*1)。(r,α)@直交座標 や (rcosα,rsinα)@極座標 ではない。
すなわち、
・数値である複素数 x+jy をベクトル (x,y)@直交座標 として見る。
ということを、
・数値である複素数 rcosα+jrsinα をベクトル (rcosα,rsinα)@直交座標 として見る。
と書きなおすということだ。rcosα と rsinα は x や y と同様お互いに自由であり、実数や虚数の成分となる資格を持っているからだ。(r と α を選ぶことによって、どんな rcosα に対しても rsinα は自由に選べるということに注意してほしい。)

では、このような複素平面上で、複素数の計算はどのように見えるのだろう。
--- 加算 ---
二つの複素数を、
x+jy
u+jv
とすると、実数部は実数部の数同士、虚数部は虚数部の数同士の加算、(x+u)+j(y+v) になる。
これは複素平面上の2つのベクトル (x,y) と (u,v) とを加算したことと同じである。
--- かけ算 ---
二つの複素数を、
rcosα+jrsinα
qcosβ+jqsinβ
とすると、幾何学的に導かれた加法定理より、

r(cosα+jsinα)q(cosβ+jsinβ) = rqcos(α+β)+jrqsin(α+β)

となる(*1)。AcosB+jAsinB の形の複素数同士のかけ算は、同じ AcosB+jAsinB の形になり、三角関数の変数は元の変数の足し算に、振幅は元の振幅のかけ算になる。これは、複素平面上でベクトル (rcosα,rsinα) の長さを q 倍にし、角度を β だけ回転させたことと同じである。際立った結果だ。だが、これを複素数の振る舞いだと考えてはならない。そう見えるように複素平面を定義したということだ。別の切り口で言うと、x+jy や rcosα+jrsinα はベクトルではなく、あくまで複素数というひとつの数であるということだ。複素数のルールに基づくべき本来の計算をそのまま仮のカンバス(複素平面上の位置)上で行なえるわけではない。べクトルのかけ算(内積や外積)ではないからだ。ただ、実体として複素数同士のかけ算がなされているわけであるから、複素平面上での動きにも意味付けは必要なのだ。例えば複素数に j をかけることを、複素平面上では半時計回りに90度回転させること、と捉えれば良い。
1xj=j (90度半時計回り)
jxj=-1 (さらに90度半時計回り)
1x-j=-j (90度時計回り)
-jx-j=-1 (さらに90度時計回り)
俺達の現場に限れば、「虚数というものはこのことのために存在する」と言いきって良いだろう。

複素平面を、複素数をうまく扱うためのカンバスとして多く実務に取り入れ始めたのはすぐ後に続いたガウスたちだと言われている。上に書いたように、複素数を平面に載せて眺めてみることに一定の必然性は元々あったのだが、その後の実務によって、exp(jα)=cosα+jsinα の α を極座標表示の目に見える角度 Θ として捉える(考える)、というシステムは、今では俺達一般労働者にまで受け入れられるようになった。複素平面は、わけのわからない複素数と人とををつなぐインターフェイスとして、「それでもなんとか目に見える」という安心感を提供してくれているのである。






次に、正弦波と複素数との関係である。exp(jΘ) あるいは =cosΘ+jsinΘ は、くり繰り返すがあくまでも複素数であり数である。正弦波をあらわすわけではない。ただ、正弦波の計算を簡単に行うためのツールとして複素数は使われ、そのカンバスは上に書いたとおり複素平面なのである。では、正弦波を取り扱う際、どういう理由でどのようにして複素数が使われるのだろうか。まずは、あまり使う機会は多くないだろうしあえて使うこともないとは思うが、計算のため正弦波を複素数に置き換えるということについて考えてみよう。これは「正弦波を複素数で表す」などという不可解な話などではない。ただ、ある場合に限って、元に戻すことを前提に、「置き換え」が許されるということである。(後述のようにこれをやってはいけないケースも少なくない。)
cosΘ → exp(jΘ)

いくつか確かめてみる。

確認例:dcosΘ/dΘ = -sinΘ
置換→:→ dexp(jΘ)/dΘ = jexp(jΘ) = j(cosΘ+jsinΘ) = -sinΘ+jcosΘ
実数部:-sinΘ
虚数部:cosΘ
絶対値:SQR(sinΘ2+cosΘ2)=1
位相 :Θ

確認例:cos(Θ+φ)
置換→:→ expj(Θ+φ) = exp(jΘ)exp(jφ) = (cosΘ+jsinΘ)(cosφ+jsinφ) = cosΘcosφ-sinΘsinφ+j(sinΘcosφ+cosΘsinφ)
実数部:cosΘcosφ-sinΘsinφ = cos(Θ+φ)
虚数部:sinΘcosφ+cosΘsinφ = sin(Θ+φ)
絶対値:1
位相 :Θ+φ

確認例:cosΘ+cosφ
置換→:→ exp(jΘ)+exp(jφ) = cosΘ+cosφ+j(sinΘ+sinφ)
実数部:cosΘ+cosφ
虚数部:sinΘ+sinφ
絶対値:SQR[cosΘ2+cosφ2+2cosΘcosφ+sinΘ2+sinφ2+2sinΘsinφ] = SQR[2(1+cosΘcosφ+sinΘsinφ)] = SQR[2(1+cos(Θ-φ))]
位相 γ:cosγ = (cosΘ+cosφ)/SQR[2(1+cos(Θ-φ))]


いずれも、複素数に置き換えて計算した結果の実数部は、元の式と同じものになる。
さらに、計算結果である複素数を絶対値と位相で表しても同じである。
一方、かけ算でこれを行ってはならない。cosΘ*cosφ → exp(jΘ)*exp(jφ) = expj(Θ+φ) ←cos(Θ+φ) になってしまう。関数のかけ算は0階の項で線形ではない。

実際、実数である正弦波が解として期待される微分方程式を解くときに、「解を複素数としてみる」ことがある。ただ、実際にその複素数の解から実数部を取り出して現実の評価に用いるとなれば、虚数部を無視することには抵抗がある。そこで、実際に微分方程式を解く前に、微分方程式が複素関数 f()=g()+ih() [g(),h()は実関数] に関するものと考え、微分方程式自体を実数部と虚数部に分けて整理してみる。その微分方程式が微分の階数について線形であるなら、式は実数部と虚数部とに分けることができる。そして実数部の式と虚数部の式とは独立に成立しなければならない。実数部の式は実関数 g() のみに関する微分方程式であって、元の f() に関する微分方程式と同じかたちになっているはずだ。すなわち、その種の微分方程式では、複素関数 f()=g()+ih() に関する微分方程式の解が得られれば、その実数部は、f() が実関数である場合の解でもある、ということである。さらに、これにもまた抵抗はあるのだが、いま捨ててしまった虚数部を実数部と共に使えば、極座標で正しい結果を表示することもできるのである。







最後に、こちらは毎日使うツールでありこの章全体の本題のひとつでもある。
様々な名前で呼ばれていて混乱するのだが、
・フーリエ変換
・フーリエ表示
・フェーザ表示
・ベクトル算法
について複素数との関係を考えてみよう。
教科書の著者たちに実際聞いたわけではないが(もうほとんど向こう側だし)、この場面では本質的に同じ操作を指していると思う。
これらは主に「f特」を算出するために使われる。
「f特」とは、時間tの関数である微分方程式を、周波数ωの代数方程式として解いた結果そのもの(ωの関数のまま)である。
それは具体的にはインピーダンス Z やゲイン G の周波数ω依存性であって、実数部が振幅、虚数部が位相の複素数で表される。
そしてこの虚数部は捨てられない。先の「正弦波は複素数などではない」こととは反対に、こちらは最初から完全に複素数なのである。
「f特」の計算では、フーリエ変換の特性を利用して、
f(t) → F(jω)
df(t)/dt → jωF(jω)
として時間空間を周波数空間に写すことが最初に行われる。
フーリエ変換の解析的な利用 を参照のこと)
前節(正弦波を複素数に置き換えてみる)で使ったのは dcosΘ/dΘ → dexp(jΘ)/dΘ = jexp(jΘ) だったが、それとは少し違うようだ。

キャパシタとインダクタを例として、インピーダンス Z を実際に見てみよう。
要素:キャパシタ
i(t) = Cdv(t)/dt
I(jω) = jωCV(jω)
(電流は電圧に対して、位相が j だけ進み、振幅が ωC 倍)
Z = 1/jωC
要素:インダクタ
v(t) = Ldi(t)/dt
V(jω) = jωLI(jw)
(電圧は電流に対して、位相が j だけ進み、振幅が ωL 倍)
Z = jωL






*1)
直交座標表示におけるベクトルの各成分が複素数の実数部と虚数部に対応するとしても、極座標表示におけるベクトルの各成分 r と α が実数部と虚数部に対応するわけではない。この r と α が複素数の何を表すかについてはオイラーの式(*2)を待たなければならない。

*2)
指数関数と三角関数のそれぞれべき級数への展開を比較することによって、
exp(jα) = cosα+jsinα
であることが導かれる。
よって、このかけ算はやはり以下のように表される。加法定理からではない。
exp(jα)exp(jβ) = exp(j(α+β)) より、
(cosα+jsinα)(cosβ+jsinβ) = cos(α+β)+jsin(α+β)



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(付録)加法定理


三角関数の加法定理は、ただ線を引くことによって確認することができる。
sin(a+b) = sinacosb+cosasinb
cos(a+b) = cosacosb-sinasinb
このとおり幸運にも最初から目に見える見通しがあるわけで、これを眺めながら直角三角形を二つ、頂点(角 a と角 a+b の)を重ねて描くことによってこれは導かれる。決してオイラーの示した関係が加法定理のヒントや原典だったわけではないのだが、その早合点は、e と π と i を学んだ生徒たちが意外と落ちる小さな穴である。
ただ、もしも、
exp(jΘ) = cosΘ+jsinΘ
をすでに消化しているのであれば、こちらからも同じものが導き出される。複素平面からではなく式そのものからである。
指数の加算は指数関数の掛け算である。
exp(a+b) = exp(a)exp(b)
同様に exp(jΘ) も、Θを a+b とすれば、
exp(j(a+b))
exp(ja)exp(jb)
と二通りに書ける。それぞれにオイラーが示した関係を適用すると以下のようになる。
cos(a+b)+jsin(a+b)
(cosa+jsina)(cosb+jsinb) = (cosacosb-sinasinb)+(sinacosb+cosasinb)
ここで実数部同士、虚数部同士を比較したものが三角関数の加法定理と一致する。
俺達はすでに、自然科学では複素数 exp(jΘ) を2次元平面に乗せるのが賢いと了解している。したがってこのことに特別な思いはないかもしれない。しかし偶然なのかどちらも同じくらい明快であることに対しては、なにか引っかかるものがあって当然だろう。



もうひとつ、これも幾何的に簡単な説明がなされる関係であるにもかかわらず、その形から複素平面とか直交座標表示/極座標表示を思わず連想してしまうのが、三角関数の合成である。
asinΘ+bcosΘ = SQR(a2+b2) sin(Θ+α)
...cosα = a/(SQR(a2+b2)、sinα = b/(SQR(a2+b2)
こちらも、加法定理と asinΘ+bcosΘ とを比較することによって導かれる。



さて最後に、この加法定理が具体的に使われている例を、無線通信の変調/復調技術からピックアップしてみよう。

<同一周期の掛け算>
QAMを受信する直交振幅復調(直交検波)では、基準となる正弦波との掛け合わせによって、倍の周波数でオフセットした正弦波がまず作られる。このことは加法定理によって導かれる。
csin(ωt+α)sinωt = (c/2){cosα-cos(2ωt+α)} (cos側は省略)
これを更に積分すると、位相差と振幅の情報を持った量が抽出できる。
(c/2)cosα

<同一周期の加算>
直交振幅変調(QAM)では、直交する二つの正弦波の加算によって位相と振幅がコントロールされる。このことは三角関数の合成、または加法定理から導かれる(前出)。
asinΘ+bcosΘ = SQR(a2+b2) sin(Θ+α)

<異なる周期の掛け算>
混合器(ミキサ)では、二つの異なる周期の正弦波を掛け合わせることによって、差または和の周波数の正弦波を新しく作り出す。この方法が作る正弦波は加法定理によって以下のように示される。この後フィルタによって周波数変換されたどちらかを取り出す。ヘテロダインという用語でも知られる。
asinω1t*bsinω2t = (ab/2)cos(ω1-ω2)t - (ab/2)cos(ω1+ω2)t
振幅変調(AM)も同様に、搬送波に信号(+1)を掛け合わせている。この方法も部分的には混合器であって、側波帯が新しく出てくることが加法定理によって以下のように示される。こちらは搬送波も残る。(添字cはキャリア、sはシグナルを表す。)
(Vc+Vssinωst)sinωct = Vcsinωct + (Vs/2)cos(ωs-ωc)t - (Vs/2)cos(ωs+ωc)t

<異なる周期の加算>
現象の解析や、うなりの生成、机上で周期的な波形を整形しようというときに用いられるが、実際に見ることはあまりないかもしれない。この一部は上記<異なる周期の掛け算>の裏返しになる。


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