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線形常微分方程式


普段身の回りで起こる様々な現象において、それを表す関数の変化の度合がその関数の値自体に影響されることは少なくない。そのうちの解析的な解を得ることができるものや、電気回路/電子部品の世界で使われる基本的なもは、多くの場合線形微分方程式で表されている。いまのうちに線形微分方程式のアウトラインを一度確認しておこう。



<1階線形常微分方程式> (*1)

ひとつの鍵は、現象を表す関数の変化がその関数自体に比例していればそれは指数関数かもしれない、そのような見通しだ。ただ、疑いも反省も忘れてはならない。いくつかキーワードを手がかりに少し思い出してみる。
微分方程式が y の微分(0階すなわち y 自身を含む)と t の関数との線形結合であるということは、1階の場合、それは、
y'+P(t)y = Q(t)
と書けるということである。Q(t) が 0 (方程式が同次)であれば簡単に変数を分離でき、解は、
y = Aexp(-integP(t)dt)
となる。
例えば、物体の温度が下がる速度は物体と周囲との温度差に比例するという現象、穴から漏れている水の残りの高さが減る速度は残りの水の高さに比例するという現象など、多くのものは幸運にもこの形をしているのである。
一方、Q(t) が 0 ではない場合でもあきらめることはない。同次の解 Aexp(-integP(t)dt) の係数 A を t の関数に置き換えてみるという方法がある。これはこの微分方程式の「線形性」による置き換えであるらしい(ここ俺にはよくわからない)。少なくとも和の微分が微分の和になるという道筋にはあるのだろう。
A = u(t)
y = uφ(t)
すると左辺は次のようになる。
y'+P(t)y = u'exp()+uv'exp()+P(t)uexp() = u'exp()
(括弧内全て -integP(t)dt 省略)
置き換えた u' が y' と y とを一緒に包み込んでくれるわけだ。
これを右辺と比較して整理すると、
u' = Q(t)/exp(-integP(t)dt)
となり、u(t) を求めることができる。
u(t) = integ{Q(t)exp(integP(t)dt)}dt+B
ここまでの流れはあまり印象に残るものではないかもしれない。実際俺達にとって役に立つのはその結果、解の主役は同次の場合と同じくやはり exp(-integP(t)dt) であって( = φ(t) とおく)、
y = φ(t) [integ(Q(t)/φ(t))dt+D]
になるという事実だろう。



<高階線形常微分方程式>

同次の2階線形常微分方程式、(*2)
y''+P(t)y'+Q(t)y = 0
は、電気回路であれば交流電圧源の無いLCR直列回路に相当する。L(インダクタ)の電圧は電流の1階微分、C(キャパシタ)の電圧は電流の1階積分、したがってそれらの関係が2階の式で表される。バネであれば力と加速度は距離に比例するので(フックの法則)、同じく2階の式になる。
同次の一般解は特性方程式と呼ばれる係数の式から導くことができる。
特性方程式とは、演算子(d/dt = ψ)という考え方をもって、
{ψ^2+P(t)ψ+Q(t)}y = 0
としたときに、ψに関するこの2次方程式の複素根(であれば) a+bj と a-bj をもって、解が次のように決まるという方法である。
y = Aexp(a+bj)t+Bexp(a-bj)t
これは一方的に減衰する固有振動と同じものだ。






*1)
1階の微分方程式の中には、線形ではなくても線形と似た解き方ができる形がいくつか見つけられている。ベルヌイの式、リッカチの式と呼ばれるものなどがそうである。もしかしたら目の前の課題にそのうちのひとつが偶然はまるということも、人生に一度くらいはあるかもしれない。

*2)
非同次であっても、
y''+P(t)y'+Q(t)y = R(t)
例えばLCR直列回路において R(t)= Eexp(c+dj)t などとすれば(交流電圧源が追加されたことになる)特解は決まり、減衰する固有振動と強制的な振動との重なった一般解が導かれる。


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偏微分方程式と波動方程式


----  0.その前に  ----

前の項で扱った「微分方程式」がまさにそうなのだが、一般化された式のつじつまが合ったからといって、そんなものは実際なんの役にも立たないのである。こんなことがうれしいやつはただのアホだ(⇒「フーリエ級数」)。「文系と理系の能力は別のもの」とか勘違いしたままでいる「理系」の大学生か、あるいは仕事を無くして行き場のない自意識に埋もれた似非文化人の類に違いない。俺は違う。決してただのアホではない。そこからさらに何本かネジの外れたアホマイナスだ。であるからして、今この目の前にたしかに存在する3つの波動方程式
1.[一般の波動方程式]
2.[マクスウエルの波動方程式]
3.[電信方程式]
をアホマイナスなりに整頓しておかなければ、これ以上前に進むことができないのである。

たとえば1本の線(空間とか平面でも良いが)の上のあらゆる点に、その位置や時間以外の「別の量」があって、その「別の量」の大きさは位置によって異なり、さらに時間による変動もあるとする。その「別の量」を、位置と時間を別々の変数とした偏微分方程式に表すことは、多くの場合でまず試されることのひとつである。波動方程式はその偏微分方程式の代表と言える。いやむしろ、もし俺達の職場であの忌まわしい偏微分マークを見つけたならば、それはまず波動方程式である。
そしてその「別の量」とは、
1.[一般の波動方程式]:弦の振動なら弦に垂直な変位/音なら圧力..とか
2.[マクスウエルの波動方程式]:電場と磁場(この項の話題)
3.[電信方程式]:電流と電圧(この項の話題)
のことだ。この「別の量」を支配するのはそれぞれ、
1.[一般の波動方程式]:となりの点との間に働く張力..とか
2.[マクスウエルの波動方程式]:?(この項の話題)
3.[電信方程式]:?(この項の話題)
だ。そして、それぞれの、「別の量」とそれを支配するものとの関係が、3つとも、
波動方程式の基本形
(δ^2u/δx^2) = k(δ^2u/δt^2)
と同じ形をしているのである。


ちなみにこの形の偏微分方程式からは、
--- ある時刻における「別の量」の位置依存性(の形)が、時間の経過とともに少しづつ移動する ---
みたいな感じに、「別の量」の位置依存性と時間依存性が「正しく」導かれるのだという(「正しく」などという言葉を俺は絶対に信用しない)。
ともあれなるほど、「波動」と呼ばれているのはそういうことなのだろう。
波動方程式とは、その「別の量」(上の式では u )の位置依存性と時間依存性を求めるために使われる式であり、
導かれる結果をはじめに言っておくと、共通して以下のような特徴を持っている。
・移動する形はどのようなものであっても良い(*2)ので、正弦波(の重ね合わせ)として考えると良い。
・進行方向についても、一般的には正負両方向が重なっている。



----  1.[一般の波動方程式]  ----

一般の波動方程式で表わされる現象の代表に、1次元に張った弦の振動がある。
(ここで使う y は、x との2次元を表すわけではなく、弦の変位の量であり求める「別の量」である。)
① x と y との関係
ある点で片側から受ける張力 T の振動方向 y 成分はその部分の弦の角度によって決まる。
FA = Tdy/dx (角度が浅い場合の sinθ = tanθ として)
また、反対側からも同じく、
FB = Tdy/dx
の力を y 方向反対向きに受けている。しかし例えばロープの振動では、この点の y 方向には正負どちらか(張力か圧縮力かによる)の力 F が加わっていることは間違いない。それは角度の変化(曲がり方)に起因するものである。このことを、僅かに(⊿xだけ)離れた2つの場所に作用する FA と FB との差としてとらえると、F は、
F = FA-FB = Tdy/dx+T(d^2y/dx^2)⊿x - Tdy/dx = T(d^2y/dx^2)⊿x
となる。
② t と y との関係
次に、質点の運動方程式 F = mα はこの点で次のように書くことができる。
F = m⊿x(d^2y/dt^2)
③ x と y 、t と y との関係
これらから、この点の y 方向には、
T(d^2y/dx^2) = m(d^2y/dt^2)
なる関係がある。
x と t はお互いに独立な変数であるから、最後に記号も修正しておく。
T(δ^2y/δx^2) = m(δ^2y/δt^2)
これは一般に波動を表す方程式
(δ^2u/δx^2) = v^2(δ^2u/δt^2)
と同じ形の式である。




----  2.[マクスウエルの波動方程式](1次元:損失なし)  ----

波動方程式といえばこれを避けて通ることはできないだろう。
3次元については形だけだが別にまとめてある(→電磁波:発生と伝搬)。
物理的な関係式はファラデー/アンペール/マクスウエルなどにより(→電磁波:発生と伝搬)、
δE/δx = -μδH/δt
δH/δx = εδE/δt
この E対H は、LCR分布定数回路の場合の e対i と同じ関係にあり、
(真空中として減衰項を入れていないので簡単になっているが)
先の2.と同様上の式をxで、下の式をtでそれぞれ偏微分すると、
δ^2E/δx^2 = -μεδ^2E/δt^2
これは一般に波動を表す方程式
(δ^2u/δx^2) = v^2(δ^2u/δt^2)
と同じ形の式である。

Hについても同様。
δ^2H/δx^2 = -μεδ^2H/δt^2



----  3.[電信方程式](1次元:損失あり)  ----

LCR分布定数回路上の電流(電圧)も波動方程式で表される。ここで、「LCR分布定数回路だから波動方程式だろ」などと切り捨ててしまうとその後が救われない。現実に存在する特性の上の電流と電圧を式に書けば、位置の2階微分と時間の2階微分が対称になって、結果として波動方程式になるのである。さらにマクスウエルの波動方程式との関係は、電磁波が媒質中を伝播すること、対、LCRからの影響を受けながら電磁気的な変化が伝わること、その類似性と言うか同一性にある。(値は人工的な定数 ε、μ で調整される。)
具体的には、LCR分布定数回路の上で隣り合ったノード2つとループにキルヒホッフの法則を適用することによって、電圧vと電流iはそれぞれ次のようになる。δx はそのふたつのノードの距離、Gはコンダクタンス、Rは直列抵抗。
-δv/δx = Ri+Lδi/δt
-δi/δx = Gv+Cδv/δt
上の式をxで、下の式をtでそれぞれ偏微分すると、
-δ^2v/δx^2 = Rδi/δx+Lδ^2i/δtδx
-δ^2i/δxδt = Gδv/δt+Cδ^2v/δt^2
2階微分の項以外に増える項はひとつだけで、式がふたつ増える。
(tとxが独立ならばδxδtの順序は入れ替え可能だからだ。)
よってこれら4つの式を組み合わせるとたとえば電流iの項を消すことができて、
δ^2v/δx^2 = LCδ^2v/δt^2+(LG+CR)δv/δt+RGv
これは一般に波動を表す方程式
(δ^2u/δx^2) = v^2(δ^2u/δt^2)
と似たような形の式である。

以下、電流iについても同様。
δ^2i/δx^2 = LCδ^2i/δt^2+(LG+CR)δi/δt+RGi



----  4.これらの方程式を満たすものは何か(*1):フェーザ(フーリエ)表示で  ----

1次元のままで、たとえば [マクスウエルの波動方程式] の最初の物理的な関係は簡単になる。
dE/dx = -jωμH
dH/dx = jωεE
ここから H を消去すると E の波動方程式は、
d^2E/dx^2 = -ω^2μεE
となる。
そしてこの特性方程式
k^2=-ω^2με
の ±k をべき乗の係数とした exp(kx) と exp(-kx) との線型結合(expでなくても何でも良いのだが..(*2))
E = Aexp(kx)+Bexp(-kx)
が E の位置 x についての解である。(*1)
なるほど逆方向に進む波も、いい加減な気持ちで出てきたわけではないようだ。(*2)(*4)
なお、H は、ファラデーの電磁誘導
dE/dx = -jωμH
に戻れば良い。
H = √(ε/μ)(Bexp(-kx)-Aexp(kx))
この乗数
ζ = √(μ/ε)
は波動インピーダンス(空間の特性インピーダンス)と呼ばれている。
一方、位相速度(自分で t を退場させておきながらまた速度とか持ち出すのも何だが)は、元の [マクスウエルの波動方程式]、
δ^2E/δx^2 = -μεδ^2E/δt^2
の形だけから、
√(1/με)
であることがわかる。(*3)

次に、俺達が実際に触れる [電信方程式] に関してもその解の意味を確認しておこう。
まずは同様に分布定数回路の関係式から、フェーザ(フーリエ)表示でタイムドメインを消してしまう。
-dv/dx = (R+jωL)i
-di/dx = (G+jωC)v
ここから電流を消去すると電圧の波動方程式は、
d^2V(x)/dx^2 = (R+jωL)(G+jωC)V(x)
となる。
そしてこの特性方程式
γ^2 = (R+jωL)(G+jωC)
の ±γ をべき乗の係数とした exp(γx) と exp(-γx) との線型結合
V(x) = Aexp(γx)+Bexp(-γx)
が電圧 V(x) の位置 x についての解であることは [マクスウエルの波動方程式] と同様である。(*1)(*2)
そして電流 I(x) の解は、元の分布定数回路の関係式
-dv/dx = (R+jωL)i
より、
I(x) = √((G+jωC)/(R+jωL))(Bexp(-γx)-Aexp(γx))
となり、この乗数
ζ = √((R+jωL)/(G+jωC))
が特性インピーダンスであることも同じである。
その絶対値 |ζ| は、直流/低周波領域での √(R/G) から、高周波領域で √(L/C) に漸近する。

一方位相速度(伝搬定数から)は、[マクスウエルの波動方程式] と同じようには定まらないが、解、
V(x) = Aexp(γx)+Bexp(-γx)
γ = √((R+jωL)(G+jωC)) = α+jβ
は、γ の実数部分 α が減衰定数、虚数部分 β が位相定数(波数 2π/λ=ω/ν:νは位相速度:ν=ω/β)であることを示している。

さて、このままでは解の様子が皆目つかめない。それではと今どきに習ってグラフ化してみれば「ふーんなるほど」てな具合にはなるのだが、別のページにあるように戦後の教えに従って周波数を高低に分け自分なりに近似してみても良い。(⇒ 電信方程式の近似解:ただこのような近似は、せっかく ω も一部残っているのだが、漸近値にしか意味が無いような気がする。正しいことは確かめてある。)
α     → √(RG)  ( 1 + ω^2(1/8)((L/R)-(C/G))^2 )                     → √(RG)   :低周波領域 
α     → √(LC)  (1/2)( G/C + R/L )                                              :高周波領域
ν=ω/β → 1/(√(LC)√( 1 + (LG/RC)/4 + (CR/LG)/4 ))                               :低周波領域 
ν=ω/β → 1/(√(LC)(1 + (1/ω^2)( -RG/4LC + (G/C)^2/8 + (R/L)^2/8) ))  → 1/√(LC) :高周波領域






(*1)
蛇足だが、
E(x) = Aexp(jkx)+Bexp(-jkx)
から
E(x,t) = Aexp(jkx+jωt)+Bexp(-jkx+jωt)
へと時間の関数をかけ戻しても良いということについては、 ⇒ 複素数とツール の後半(「作用素」など)も見直しておくと良いだろう。



(*2)
どのような関数の線形結合であるかを波動方程式から導くことはできない。初期条件や境界条件によってある程度は決まってはくるがそれもイマイチ腑に落ちない。だが俺達が現場で「仮に」正弦波をはめ込んでみる事に対して反対を唱えるヤツはどこにも居ないし、和を取れば任意の波形に展開できるということもこれを支えてくれている。さらに正弦波は、周期と波長を扱うための世界共通の言語を持っている。これほどまでに帰納的な(よく理解できていない目線からは不安げな)論によっていくつもの超強力なツールの基礎が固められていることに対し、長い間俺は隷属したままである。



(*3)
一般的に、変数 x と y を含む新しい変数を s とし、
関数 f の 変数 x による微分を変数 s による微分に変換するなら、
df/dx = (ds/dx)(df/ds) = a(df/ds) ... a=ds/dx
d^2f/dx^2 = a(df/ds)(1/dx) = a(d^2f/ds^2)(ds/dx) = a^2(d^2f/ds^2)
このように、片方の変数による2階微分は、新しい変数による2階微分の(1階微分^2)倍になる。
このことは、[マクスウエルの波動方程式]
δ^2E/δx^2 = -μεδ^2E/δt^2
のような形の偏微分方程式においても、係数の関係を(関係だけを)直接あらわしている。
(ds/dx)^2 = -με(ds/dt)^2
定点 ds/dx=0 では、
ds/dt = √(1/με)



(*4)
「正負両方向に進む波」という考え方は多くの場面で俺達の理解を助けてくれる。その一例が交流と直流の連続性である。
電圧 V1 出力抵抗 R1 の電池に負荷 R2 を接続した場合の負荷電圧は V1*R2/(R1+R2) だが、
負荷で消費することができる電力は R1=R2 のときに最大で (V1/2)^2、電圧で言うと V1 の半分しか寄与しない。
このことを次のように組み立てるのである。
そもそも開放電圧が V1 の電池というのは V1/2 を投入する電池(R1は0ではない:値に依らない)。
(V1 という値は、負荷を開放:全反射:した場合にのみ現れる電圧。)
すなわち、境界で起こっていることを次のように:交流と同様に:解釈することができるようになる。
・R2が∞のとき:R2で消費できない:反射率 (R2-R1)/(R1+R2)=1 同相で全反射:境界の電圧振幅は入射波 (V1/2) と反射波 (V1/2) を加えて V1
・R2が0のとき:R2で消費できない:反射率 (R2-R1)/(R1+R2)=-1 逆相で全反射:境界の電圧振幅は入射波 (V1/2) と反射波 (-V1/2) を加えて 0
2端子対回路の片側ポートについても同じである(負荷が R2 -> Rd+R2 となるだけ)。
この考え方は、例えばSパラメータについて、電信方程式から起こした計算値の妥当性を確認したり、あるいは測定値を評価したりする場合に必要となるだろう。
( ⇒ 「電信方程式から2端子対回路」



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