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時間と周波数


俺達は、
フーリエ変換とかラプラス変換とかいう得体の知れないなにものかを、仕事で使いたいわけではあまりない。
ピピッとスペクトルが画面に出てくるのがなんだかうれしい、ということでも特にはない。
ただ、フーリエ変換の特性を利用して回路のインピーダンスや伝達関数を見積もったり、ラプラス変換表を持ち出して過渡応答を予測したりする方法が、便利すぎてやめられなくなってしまっただけなのだ。または、高周波測定機器の超能力、すなわち離散フーリエ変換逆フーリエ変換を使ってSパラメータとかTDRとかを瞬時に測定し見せてくれるといった離れワザ、を目の当たりにして、これら先人たちや装置の製作者のあきれるほどの才能に畏れを抱き、目を伏せながらもお恵みだけはちゃっかりロハでいただく、そんなプロのルンペンなのである。まずはこのことを理解しておかなければならない。

フーリエ変換やラプラス変換を用いた手法や機械は、良くも悪くも良い道具である。そこから得られた結果の妥当性や予測の蓋然性についてそれほど深く吟味したり考えなおしたりすることは、少なくとも俺には無い。ただ、たまたま古くなった教科書を開いたりしてみると、あらためて自分がよくわかっていないことにがっかりしながら、やっぱりあのときあの先輩に聞いておけばよかったなあと思うことは正直言ってしばしばある。

フーリエ変換もラプラス変換も、「時間の関数」と「周波数の関数」との間に立つ相互の変換でる。これらは共に、時間に対して変化する何らかの現象を見積もる事を目的として、その量をいったん周波数のスクリーンに投影することによって、要素の様々な組み合わせを上手に処理しようという手法(ウルトラC)である。教科書にあるふたつの変換はよく似たもので、ラプラス変換はフーリエ変換の拡張と言われたりもする。しかしたとえば、過渡特性を見積もるためにひも解くのは「ラプラス変換表」だしこれは実数しか扱わないが、4端子パラメータを組み合わせて定常状態の交流特性を考える場合は「フーリエ変換」を使って複素数で回路の作用を表す。このような大きな違いを整理しないまま「はいそうですか」とどんどん進むのも【過渡的には】悪くはないが、【定常的には】あまり良いことはない。(うまいこと言った?)

また、
・「f特」
・「伝達関数」
・「フーリエ変換」
・「ラプラス変換」
これらの言葉はもちろんそれぞれ別の意味をもっていて、したがって別の目的で使われなければならないのだが、かかわる変数の主役はおそらく共通して周波数である。俺達の現場でも、横軸を周波数としたグラフや絵は頻繁に使われている。だがそれらは、「周波数によってこの量はこう変わるのです」という主張ではない。多くの場合、これらを手段としてなにか別の特性を表現するのが目的なのである。そこを違えてはならない。特に、まったく別の種類の業務を日々こなしている人達と関連の話をする場合(それは購入の稟議をまわすときだ)、このことをまず説明しておくのが幸せになれる若干のコツと言えるだろう。

さて、
RFの世界では、タイムドメインが絵に描かれることはあまりない。これはどういうことなのだろうか。
19世紀末、ヘルツの火花放電は電磁波の存在を確認した。そのとき、ロッド・導体球のL/Cと火花のループによる一発の減衰振動は、これからその技術の進むべき道筋をはっきりと示すことになった。すぐに無線通信は、検波、同調、と、今度は周波数にすべてを支配されるかたちでまずは基本技術を練り、日本でも三六式無線電信機が『敵艦203地点ニ見ユ0445』を五島列島西方より発信するに至る。やがて、高周波発電、そして真空管の増幅作用を使うようになった無線通信は、その周波数をパラメータとしてさまざまな性能をたたきあげる錬金術となってゆくのである。そして21世紀に入った今でも、変調/復調/混合/フィルタで頼りにできるパラメータがやはり周波数に依存したなにかであるという事実を見ると、「f特」は今なおこの世界を完全に支配していると言って良いだろう。
実際、RFの世界でここまで「f特」が重宝されてきた理由はおそらく3つある。周波数の弁別が必要だったということもあるだろう。しかし重要なのは残りの2つで、それは、いつの時代も周波数ドメインを観測するほうがタイムドメインを観測するよりも簡単だということと、ラプラス変換/フーリエ変換/フェーザ(フーリエ)表示といった回路計算の途中で式に見えているのは伝達関数やインピーダンスの「f特」だということである。

ではこれから、俺達がこれらのツールを使う際、または関連の特性を議論する場面で、様々な立場の人が思い思いに使うだろうこれらの単語を正しく聞き分けるために、あらかじめ整理しておけば助けになると考えられる要素をいくつか確認してみることにする。


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フーリエ級数とフーリエ変換


<フーリエ級数>

sin(t)
の周期を2倍、3倍...としてずっと加えていった級数の和があるとして、
sin(1t) + sin(2t) + ... + sin(mt) + ...
この級数のすべての項に適当な係数を付けてやれば、sin(1t) と同じ周期のどんな波形 f(t) も表すことができる。
f(t) = a[1]sin(1t) + a[2]sin(2t) + ... + a[m]sin(mt) + ...
と、この時点で「なんじゃそりゃ」となるのだが、これはそもそもよくわかっていない俺が書いているのだからしかたがない。それに、19世紀、とある暴論から始まった紛争が【収束】するまでの順序をもまったく無視している(らしい)のだから、こんなものをこれだけで素通りするやつはアホだ。ただ、「だったらどうした」には答えなければ次に進めない。それは、もしビッグブラザーの言うとおりならば、級数の各係数はそれぞれの単振動の全体への寄与分(重み)のようなものであって、その重みを周波数 m で表す(または周波数 m ごとに測定する)ことができて、また逆に辿ることも..、という見通しである。ならば、そのゴールを信じ、ひとまずここはそのモヤモヤを蹴っ飛ばすことにしよう。どうせ俺達だって日本の間抜けな入試文化の落とし子(赤点でさらにドン)、底ぬけのアホであることに変わりはない。

最初に書いたとおり残念なことにこの右辺は無限に続く。このままでそれぞれの項の係数 a[m] を求めるなど普通は考えもつかないが、ちゃんと方法があるらしい。
まずは最後の式の両辺に sin(mt) をかけ、半周期を区間として積分する。
integ@0:π@{f(t)sin(mt)}dt = integ@0:π@{a[1]sin(1t)sin(mt)}dt + integ@0:π@{a[1]sin(2t)sin(mt)}dt + ...
余計ややこしくなりそうだが、実は右辺にはひとつの項しか残らない。
integ@0:π@{sin(nt)sin(mt)}dt
は m ≠ n で必ず 0 になるからだ。正弦波を重ねることによってイメージをつかむことができるはずである。
もとに戻って、a[m] が求まる様子を整理する。
integ@0:π@{f(t)sin(mt)}dt = integ@0:π@{a[m]sin2(mt)}dt
integ@0:π@{f(t)sin(mt)}dt = a[m]π/2
a[m] = (2/π)integ@0:π@{f(t)sin(mt)}dt

次に、sin だけでは f(t) は t=0 で必ず 0 なので、最初に戻って、f(t) を cos も加えた級数とする。
同じ周期の sin と cos を加算すると位相が自由に変えられる。これは加法定理である。
f(t) = a[1]sin(1t) + a[2]sin(2t) + ... + b[1]cos(1t) + b[2]cos(2t) + ...
a[m] = (2/π)integ@-π/2:π/2@{f(t)sin(mt)}dt
b[m] = (2/π)integ@-π/2:π/2@{f(t)cos(mt)}dt
係数 a[m] 、b[m] の式は、 f(t) が周波数 m に対して持つ重みのようなものと捉えることができる。
これはタイムドメインと周波数ドメインとを結びつける式で、「フーリエ変換式」とも似たような形になってきた。





<フーリエ変換(複素フーリエ変換)>

最初に断っておくと、俺には特にこの部分の目的からゴールまでを地図の上に展開することができていない。したがって説明できない。確認できるのはプロットだけだ。ここでは、級数の展開で得た式(sin と cos の入り混じった式)を複素変換する。そうするとフーリエ級数は「フーリエ変換式」として使えるようになるとともに、関数の非周期的な一面までも扱えるようになる。(「復素変換」の意味を違えてはいけない。それは別の章で考える。)

ともかく教科書に従って、sin(t) を exp(jt) に、cos(t) を exp(-jt) に書き換え(この条件なら覚えているぞ →複素数とツール)、係数を別の観点から整理する。
このことによって、周期の倍数 1、2、3 ... は、-1、-2、-3 ... にまで広がる。
f(t) = c[1]exp(1jt) + c[2]exp(2jt) + ... + d[-1]exp(-1jt) + d[-2]exp(-2jt) + ...
c[m] = (b[m]-ja[m])/2
integ@-π/2:π/2@{f(t)(cos(mt)-jsin(mt))}dt = (1/π)integ@-π/2:π/2@{f(t)exp(-jmt)}dt
(d[m] も同じ)
m を ω、 c[m] を F(jω) として、また c[] と d[] は c[] で代表する。
f(t) = c[1]exp(1jt) + c[2]exp(2jt) + ... + c[-1]exp(-1jt) + c[-2]exp(-2jt) + ...
F[jω] = (1/π)integ@-π/2:π/2@{f(t)exp(-jωt)}dt

上の式を±無限大間の積分とすると以下のようになる。
f(t) = integ@-∞:∞@{F(jω)exp(jωt)}dω
F(jω) = integ@-∞:∞@{f(t)exp(-jωt)}dt
上がフーリエ逆変換式、下がフーリエ変換式と言われるものである。
(係数は1とした)



こうしてできたフーリエ変換の特性は以下のようなものである。

[元の関数]       -->   [そのフーリエ変換]
f(t)             -->   F(jω)
df(t)/dt         -->   jωF(jω)
integ{f(t)}dt    -->   (1/jω)F(jω)

なにこれ? 俺達の仕事ではこのことによって時間tの関数と周波数ωの関数との間を行ったり来たりできるということだ。
だから? あわてるな。次節以降でこれを使うのだ。


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フーリエ変換の回路での利用


[時間の関数]     -->   [そのフーリエ変換]
f(t)             -->   F(jω)
df(t)/dt         -->   jωF(jω)
integ{f(t)}dt    -->   (1/jω)F(jω)

実は「フーリエ変換」という言葉は、回路ではそれほど用いられるわけではない。「フーリエ変換の特性は回路の伝達関数(jω)やインピーダンス(jω)を代数的に求めるために役立っている」、などという説明に使われるくらいだろう。回路の定常的な振る舞いを見積もる方法を、あの厳しい「フーリエ変換」と同じ名前で呼んでしまうのか、それともただ「記号演算」「フェーザ(フーリエ)表示」「Vector算法」「作用素」を使うべくして使っていると簡単に考えれば良いのか(→ 複素数とツール)、行き先は同じでも論理の道筋は多面的である。というわけで多少歯切れは悪いのだが、ここでは「フーリエ変換」として、最も簡単な回路の例を挙げておく。



【RC直列回路】

直列電圧 v(t)、C両端電圧 u(t)、電流 i(t) とすると、回路方程式は以下のようになる。
i(t) = Cdu(t)/dt
u(t) = v(t) - Ri(t)

-- インピーダンス --
回路方程式を入力電圧 v(t) と電流 i(t) の式にして、
Cdv(t)/dt - CRdi(t)/dt = i(t)
両辺各項をフーリエ変換すると、
jωV(jω) = I(jω)(jωR+1/C)
インピーダンス Z(jω) は以下のとおり ω に依存する。虚数部分はリアクタンス、実数部分は抵抗である。
Z(jω) = V(jω)/I(jω) = R + 1/(jωC)

-- 伝達関数:1次のLPF --
回路方程式を入力電圧 v(t) と出力電圧 v(t) の式にして、
Cdu(t)/dt = (v(t)-u(t))/R
両辺各項をフーリエ変換すると、
CjωU(jω) = {V(jω)-U(jω)}/R
これをまとめると、
U(jω) = V(jω)/(1+jωCR)
となる。
出力 U(jω) の入力 V(jω) に対する比 F(jω)、
F(jω) = 1/(1+jωCR)
が伝達関数で、この複素数の振幅と位相はそれぞれ、
振幅: SQR[1/{1+(ωCR)^2}]
位相: arctan(ωCR)
1次遅れ要素になっていることがわかる。




【LC直列回路】

直列電圧 v(t)、C両端電圧 u(t)、電流 i(t) とすると、回路方程式は以下のようになる。
i(t) = Cdu(t)/dt
u(t) = v(t) - Ldi(t)/dt

-- インピーダンス --
回路方程式を入力電圧 v(t) と電流 i(t) の式にして、
i(t) = Cdv(t)/dt - LCd^2i(t)/dt^2
両辺各項をフーリエ変換すると、
I(jω) = CjωV(jω) + ω^2LCI(jω)
I(jω)(1-ω^2LC) = CjωV(jω)
インピーダンス Z(jω) は以下のとおり ω に依存し、Rが無いので虚数部分(リアクタンス)のみである。
Z(jω) = V(jω)/I(jω) = j(ωL-1/ωC)

-- 伝達関数(LC直列回路のC両端を出力として) --
回路方程式を入力電圧 v(t) と出力電圧 v(t) の式にして、
u(t) = v(t) - LCd^2u(t)/dt^2
両辺各項をフーリエ変換すると、
U(jω) = V(jω) + LCω^2U(jω)
出力 U(jω) の入力 V(jω) に対する比 F(jω)、
F(jω) = 1/(1-ω^2LC)
が伝達関数になる(この場合Rを0にしているので実数)。
振幅: 1/(1-ω^2LC)
位相: 一定(注:振幅はω=1/SQR(LC)で反転)



【RLC直列回路】

直列電圧 v(t)、C両端電圧 u(t)、電流 i(t) とすると、回路方程式は以下のようになる。
i(t) = Cdu(t)/dt
u(t) = v(t)-Ldi(t)/dt-Ri(t)

-- インピーダンス --
回路方程式を入力電圧 v(t) と電流 i(t) の式にして、
i(t) = Cdv(t)/dt - LCd^2i(t)/dt^2 - CRdi(t)/dt
両辺各項をフーリエ変換すると、
I(jω) = CjωV(jω) + ω^2LCI(jω) - jωCRI(jω)
I(jω)(1-ω^2LC+jωCR) = CjωV(jω)
インピーダンス Z(jω) は以下のとおり、虚数部分はリアクタンス、実数部分は抵抗である。
Z(jω) = V(jω)/I(jω) = j(ωL-1/ωC) + R

-- 伝達関数(RLC直列回路のC両端を出力とした2次のLPF) --
回路方程式を入力電圧 v(t) と出力電圧 v(t) の式にして、
u(t) = v(t) - LCd^2u(t)/dt^2 - RCdu(t)/dt
両辺各項をフーリエ変換すると、
U(jω) = V(jω) + LCω^2U(jω) - jωRCU(jω)
出力 U(jω) の入力 V(jω) に対する比 F(jω)、
F(jω) = 1/(1-ω^2LC+jωRC) = [(1-ω^2LC)-jωRC]/[(1-ω^2LC)^2+(ωRC)^2]
が伝達関数になり、
振幅: 1/SQR[(1-ω^2LC)^2+(ωRC)^2](分子がもう一度分母のSQRになるので)
位相: (1-ω^2LC)/[(1-ω^2LC)^2+(ωRC)^2] と jωRC/[(1-ω^2LC)^2+(ωRC)^2] との偏角
振幅は、
-- ω が ω0 に比べて小さいときは1のまま
-- ω が ω0 に近くなるとQに関係した変化を見せながら
-- ω0 を超えると急激に小さくなる
という、2次遅れ要素である。


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Q値


Q値は品質係数と呼ばれることもあり、回路に限らず振動一般に用いられる係数である。振動する対象や接続によって、振動の性質とされたり、消費されるエネルギーの比とされたり、さらには共振の半値幅だったりもする。実はこれらは物理的には同じものだ。
「品質」というと、ただ大きければ良いように聞こえてしまうかもしれない。たとえば部品のBPF特性だけを見るならばそういう評価もあるだろう。しかし、同じフィルター特性であっても、LPFやHPFにおいてQ値の重みは異なる。共振を用いるとき、回路全体のQ値は考慮されてしかるべきだが(それでもただ大きければ良いわけではない)、部品単体のQ値は、Rが無視できる方向という以外あまり何も示していないのである。また、特に部品の性能として共振を大きく外れ異なる意味でQ値が使われることもあり、これにも注意しておかなければならない。
このような混乱を招く値をわざわざ回路に導入しなければならないのだろうか。測定もや調整も容易なRとLとCとωで表すほうがどう考えてもわかりやすい。Q値はたぶん、他に比べてこの値が際立って表出するような分野、構造物の振動のようなQ値が単独でも強力で定まった意味を持つ現象で生きている。回路一般の要求によって定義された値ではないと思う。

しかしここではともかく回路について、RLC2次遅れを例に確認しておこう。



*** LC直列にR直列でCが負荷(前節のとおり)
(LとRが直列でCを並列=負荷とする場合)
伝達関数
F(jω) = 1/(1-ω^2LC+jωCR)

*** LC直列にRがC並列で負荷
(Lが直列でRとCが共に並列=負荷とする場合)
伝達関数G
F(jω) = 1/(-ω^2LC+jω(L/R)+1)

これら二つの例では(この種の回路では)、特性を一つの係数に集約した一般式に置き換えることができる。
まず、ω を ω0 でノーマライズして、x(=ω/ω0) とする。
F = 1/(-x^2+(1/Q)xj+1)
係数に使った Q は、共振回路や電子部品で一般に通用している Q 値(品質係数)と同じものである。
前者(LC 直列に R 直列で C が負荷)では、Q = (1/R)√(L/C)
後者(LC 直列に R が C 並列で負荷)では、Q = R√(C/L)
F の x 依存性は以下のとおりイメージできるようになっている。
F が無限大(分母=0)になる「極」は、
x = (1(-1/Q)j±ω0√(4-(1/Q)^2))/2
となるときだ。実数である周波数の比 x(=ω/ω0) と複素数とを比較することに抵抗はあるが、右辺が実数であるならば(Q=∞ のとき)極は出現し、その場所は x=1(ω=ω0) である。
ちなみに、平方根の中(4-(1/Q)^2)の正負は、振動と減衰の主従を決めている。
Q>1/2 のとき:時間軸での振動
Q<1/2 のとき:過減衰
Q=1/2 のとき:臨界減衰応答

一般式に戻り、(面倒なので ω も x のままで)伝達関数と位相を抽出しよう。
|F| = 1/(√((1-x^2)+(x/Q)^2))
位相は (x^2-1) と x/Q との arctan
周波数依存性のグラフを描いてみる。
伝達関数は、
・x が小さいときは1(一定)
・x=1 前後から下がり始める
・x が大きいときは 1/x^2(loglogプロットでは直線で落ちる..-12dB/oct または -40dB/dec)
また、位相は、
・x が小さいときを 0°とすると(一定)
・x=1 前後のとき急激に下がって -90°を跨ぎ、
・x が大きいときは -180°(一定)
以上、2次遅れのボーデ線図である。

最後に、x を ω に、Q を L,C,R に戻し、それぞれの例で、一般式の伝達関数が普通に計算した場合と同じである事を確認しておく。
前者(LC直列にR直列でCが負荷)では、|F| = 1/(√((1-(ω^2LC)^2)+(ωCR)^2))
後者(LC直列にRがC並列で負荷)では、|F| = 1/(√((1-(ω^2LC)^2)+(ωL/R)^2))


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フーリエ変換と現象分析


現象分析という場でまず困るのは、
・得られるデータが離散的(サンプリング)
・処理の範囲が有限
ということである。とぎれとぎれのデータをどうやってフーリエ変換するかを考えなければならないのだ。そもそもフーリエ変換を定義して良いのかどうか自体が問題である。だが実際には、「とぎれとぎれだけれども関数」というインパルス列(δ関数列)を用いることによって離散フーリエ変換は定義されている。原信号 x(t) をこのインパルス列でサンプリングした y(t) を考え、実際に則して期間を有限とすると、 y(t) は離散値の有限な回数だけの和である。期間が原信号の1周期だけであれば以下のように書くことになる。
y(t) = sigma@n=0:N-1@{x(nT)δ(t-nT)}
ここで y(t) をフーリエ変換する。
(δ関数のフーリエ変換は一定値)
Y(k) = (1/N)sigma@n=0:N-1@{x(nT)exp(-j^2πkn/N)}
これが離散フーリエ変換として行うべき作業だ。間違えてはいけないのは、離散フーリエ変換の結果見えてくるのは原信号の周波数空間 X(k) ではなく、サンプリングした後の信号の周波数空間 Y(k) だということである。

それでは、「サンプリングする」ことが周波数空間にどのような影響を与えるのかを、以下で整理してみよう。

周期矩形波を原信号として、これをフーリエ級数に展開すると、
基本波+2倍周期の小さな波+3倍周期のさらに小さな波+....
となるはずだ。
サンプリングした後の信号の周波数空間 Y(k) は、基本波の周波数を間隔とした離散的な関数である。したがって基本波の周期が長ければ長いほど周波数空間では高調波の間隔(離散)が小さくなり(時間枠の逆数が周波数の基本単位)、これがさらに長く周期的ではなくなる(周期が無限大になる)と、周波数空間では連続的な関数になる。
(実際には、孤立矩形波(幅をもった1パルス)  →  sinc関数)
(以下しばらく、矢印(→)は、時間空間  →  周波数空間 を表わす。)
(フーリエ変換の式と逆変換の式で見たように、これらには双対性(または回転の方向が違う、または共役である、という特徴)があるので、逆も同じ。)
・高調波は波の形を作る
・高調波間の周波数の波は、基本波より周期の長い波を作っている
時間空間ではほとんど何もない孤立波のほうが、周期的な波よりも多くの(連続的な)周波数から成っているということである。

上で使ったδ関数はさらに極端で、ある一点に集中して存在する(積分値は1)ので、
δ関数  →  一定値
と変換される。
先程とは逆方向に考え、これが周期的に繰り返されるとすると、周波数空間では中間の周波数の波がいらなくなり、離散的な関数になる。
δ関数の短い周期の繰り返し(インパルス列)  →  大きく離散した関数
「短い」というのは原信号の周期に比べて充分短いということで、サンプリングに使うのはこのような信号である。

これらを4種類の形状でまとめると、時間空間と周波数空間とは以下のように対応している。ここでは、それぞれの空間の中で左上が原信号、左下がサンプリング信号であることを想定している。

(時間空間)
周期のある連続波         孤立した(周期無限大)連続波
周期のあるインパルス    孤立した(周期無限大)インパルス
  ↓↑
(周波数空間)
小さく離散した関数       連続的な関数
大きく離散した関数       連続的な関数

これにより、サンプリング後の信号は、周波数空間では、小さく離散した関数(時間空間の原信号)と、大きく離散した関数(時間空間のサンプリング信号)との、それらの重ね合わせ(かけあわせ)であると予想することができる。

また、原信号が周期的であったとしても、俺達は実際にこれを有限の時間範囲でしか観測(加算)できない。周期的な連続波(左上)が孤立した連続波(右上)に近いものとして扱われた場合は、本来空いているはずの高調波間が埋まってゆく。一方、周期的であるという前提でこの限定された範囲の測定値を繰り返し用いた場合は、範囲のとりかた(時間窓)によっては原信号に存在しないはずの周波数が現れるという問題が見えてくる。


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ラプラス変換と回路での利用


ラプラス変換も、前出「フーリエ変換の回路での利用」と同様、俺達が実際に現場で使う道具である。ラプラス変換は、そのあとにラプラス逆変換を使って時間tの関数に戻す作業までを合わせて、入出力関係の過渡的な振る舞いを評価するために整備されたツールである。

ただ、過渡的な解析においてもやはり、ラプラス変換とは異なる別の登山道はある(「フーリエ変換の回路での利用」でもそうだった)。少し丁寧な回路の本には紹介されており理解しやすいので、数行の脱線になるが紹介しておく。それは例えばLR直列回路の電圧方程式によって電流を求める場合、定常電流=DC印加電圧/Rなのでその値を非同次の特解とし、DC印加電圧を0としたときの(同次の)一般解に加える、という、微分方程式の解法と現象の常識とが組み合わされたような方法だ。2階になるがLCRも同様。実はLRやLCRといった簡単な回路であればこちらのほうがイメージしやすいしラクなのである。しかしこの方法を現場の回路(必ず複雑になる)に適用するにはまた個別のテクニックが必要になる(ようだ)。その点、ラプラス変換はただ先達のひいてくれたガイドラインにしたがって切り貼りを試せば良く、単純作業が生業の俺達にはピッッタリの道具と言えるだろう。
余談だがもうひとつ、フーリエ変換とラプラス変換のおもしろい違いを俺は発見した(用途や複素数/実数については最初に書いた)。ラプラス変換は、制御や回路の解説書では主役のひとつとして扱われているのに対し、他方数学の教科書には一切取り上げられていないのである。何冊か確かめてみたが、書かれていても用語の紹介程度だ。「そんなものはここまでの私の説明から自然に出てきているはずだ。実際にどういう道具が作られどう使われているかなどは学問に値しない」ということらしい。おおむかしの日本の学者たちのこの演繹的(deductive)で認知原理主義的(cognito)で階層的(hierarchic)で表面的で単眼視的で逆流も上訴も許さないというかたくななスタンスは、はたしてあまねく学生たちに受け継がれ、そうやって日本の産業はここまでに貶められてしまったのかと(言い換えると俺はこんなにバカなのかと)、今になって皆打ちひしがれているのである。



ともあれ、ラプラス変換はフーリエ変換と対比されることが多い。たしかに式の形だけはそっくりだ。
フーリエ変換
F(jω) = integ@-∞:∞@{f(t)exp(-jωt)}dt
ラプラス変換
F(s) = integ@0:∞@{f(t)exp(-st)}dt
フーリエ逆変換
f(t) = integ@-∞:∞@{F(jω)exp(jωt)}dω
ラプラス逆変換
f(t) = integ@c-j∞:c+j∞@{F(s)exp(st)}ds

実際に、一階微分のフーリエ変換が
df(x)/dx = jωF(jω)
だったのに対し、同じく一階微分のラプラス変換は
df(x)/dx = sF(s) - f(0)
で表され、記号の違い(jω か s か)を除けば同じように見える。
ただラプラス変換では、フーリエ変換と比べると、
・積分範囲は 0 から(フーリエ変換は -∞ から)
・初期値 f(0) が必要
・階段関数やデルタ関数が出てくる
・実数である(フーリエ変換は複素数)
という違いがある。
これだけで「なんかイメージ湧いてきたかも」などといい加減な事を言うと怒られるかもしれないが。



まず、ラプラス変換とは、具体的には以下の様な置き換えを行うことである。
「はんだごての電源を抜いてから席を離れること!」などとぶら下げられた大きなタグの裏にも、きっと書かれていることだろう。
(h(t) は、t>0で0、t<0で1 :ヘビサイドの階段関数)
 [時間の関数]         -->   [s の関数]
 f(t)                 -->   F(s)
 df(t)/dt             -->   sF(s)-f(0)
 d^2f(t)/dt^2         -->   s^2F(s)-sf(0)-f'(0)
 integ{f(t)}dt        -->   (1/s)F(s)
 h(t)                 -->   1/s (ヘビサイドの階段関数)
 dh(t)/dt             -->   1 (ディラックのデルタ関数)
(以下、もっぱらラプラス逆変換に)
 f(t)exp(-at)         <--   F(s+a) (推移則)
 h(t)exp(-at)         <--   1/(s+a)
 h(t){1-exp(-at)}/a   <--   1/{s(s+a)}
 h(t)sin(at)          <--   a/(s^2+a^2)
 h(t)sinh(at)         <--   a/(s^2-a^2)
 h(t)cos(at)          <--   s/(s^2+a^2)
 h(t)cosh(at)         <--   s/(s^2-a^2)
 h(t)                 <--   1/s
 h(t)t                <--   1/s^2
(現場で頻出する逆変換の組み合わせ(→確認ページ))
 h(t)(1/W)exp(-(P/2)t)sin(Wt)                                     <--   1/(s^2+Ps+Q)
 h(t)[exp(-(P/2)t)cos(Wt)-(P/2)(1/W)exp(-(P/2)t)sin(Wt)]          <--   s/(s^2+Ps+Q)
 h(t)(1/Q)[1-exp(-(P/2)t)cos(Wt)-(P/2)(1/W)exp(-(P/2)t)sin(Wt)]   <--   1/{s(s^2+Ps+Q)}
 ... W^2=Q-P^2/4



【RC直列回路】

直列電圧 v(t)、C両端電圧 u(t)、電流 i(t) として、回路方程式はフーリエ変換のときと同じ。
回路方程式
i(t) = Cdu(t)/dt
u(t) = v(t)-RCdu(t)/dt

-- 電圧u(t)の過渡特性 --
回路方程式より
u(t) = v(t)-RCdu(t)/dt
v(t) を h(t)E としてラプラス変換する(Eは直流電圧値)。
U(s) = E/s-sRCU(s)+RCu(0)
 ーーーーーーーーー参考ーーーーーーーーーー
| フーリエ変換では v(t)-->V(jω)、ラプラス変換では Eh(t)-->E/s、違いを比較しておくと良い(u(0)=0 として)。
| U(jω) = V(jω)/(1+jωCR) :入力 V(jω) を関数として残したまま波を削除して、比を評価する:
| U(s) = (E/s)/(1+sCR)   :入力を周波数応答 E/s として入れこみ、出力 U(s) を導く:
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ラプラス逆変換に向けて整形(ここでは 1/{s(s+a)}:上記変換表より:に向けて})
U(s) = (E/s+RCu(0))/(1+RCs) = E/{s(1+RCs)}+RCu(0)/(1+RCs) = (E/(RC))/(s(1/(RC)+s))+u(0)/(1/(RC)+s)
ラプラス逆変換
u(t) = E{1-exp(-t/(RC))}+u(0)exp(-t/(RC)) = E-(E-u(0))exp(-t/(RC))

-- 電流i(t)の過渡特性 --
回路方程式より
i(t) = Cdv(t)/dt-CRdi(t)/dt
v(t) を h(t)E としてラプラス変換する(Eは直流電圧値)。
I(s) = CE-sCRI(s)+CRi(0)
ラプラス逆変換に向け整形
I(s) = (E/R+i(0))/(1/(CR)+s)
ラプラス逆変換
i(t) = (E/R+i(0))exp(-t/(RC))




【RLC直列回路】

直列電圧 v(t)、C両端電圧 u(t)、電流 i(t) とする。回路方程式はフーリエ変換のときと同じ。
回路方程式
i(t) = Cdu(t)/dt
u(t) = v(t)-Ldi(t)/dt-Ri(t)

----- 電圧u(t)の過渡特性 -----
回路方程式より
u(t) = v(t)-LCd^2u(t)/dt^2-RCdu(t)/dt
v(t) を h(t)E としてラプラス変換する(Eは直流電圧値)。
U(s) = E/s-LC(s^2U(s)-su(0)-u'(0))-RC(sU(s)-u(0))
u(0)=0、u'(0)=0 とすると、
U(s) = E/{s(1+LCs^2+RCs)} = (E/(LC))/{s(s^2+(R/L)s+1/(LC))}
例としてここでは上記「頻出する逆変換」の3行目を使ってみる。
... P=R/L, Q=1/(LC)
@ W^2 = Q-P^2/4 > 0 の場合
u(t) = (E/(LC))(1/Q)[1-exp(-(P/2)t)cos(Wt)-(P/2)(1/W)exp(-(P/2)t)sin(Wt)]
@ W^2 = Q-P^2/4 < 0の場合:H^2 = P^2/4-Q:分母(s^2-a^2)の形から逆変換
u(t) = (E/(LC))(1/Q)[1-exp(-(P/2)t)cosh(Ht)-(P/2)(1/H)exp(-(P/2)t)sinh(Ht)]

----- 電流i(t)の過渡特性 -----
回路方程式より
i(t) = Cdv(t)/dt-LCd^2i(t)/dt^2-RCdi(t)/dt
v(t) を h(t)E としてラプラス変換する(Eは直流電圧値)。
I(s) = CE-LC(s^2I(s)-si(0)-i'(0))-RC(sI(s)-i(0))
i(0)=0、i'(0)=0 とすると、
I(s) = CE/(1+LCs^2+RCs) = (E/L)/{s^2+(R/L)s+1/(LC)}
例としてここでは上記「頻出する逆変換」の1行目を使ってみる。
... P=R/L, Q=1/(LC)
@ W^2 = Q-P^2/4 > 0 の場合
i(t) = (E/L)(1/W)exp(-(P/2)t)sin(Wt)
@ W^2 = Q-P^2/4 < 0の場合:H^2 = P^2/4-Q:分母(s^2-a^2)の形から逆変換
i(t) = (E/L)(1/H)exp(-(P/2)t)sinh(Ht)



【さらに応用例】
RLCの出力Cに並列抵抗が付く場合や初期値が0でない場合( ⇒ 確認ページ



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